メビウスの惑星

雑食性消費者の宇宙遭難日記です。プログレ入門者

【音楽レビュー】CAN - The Lost Tapes(2012)

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西ドイツのクラウト・ロック・バンド、CANの未発表音源集で、比較的最近に発表されたもの。30時間にも及ぶテープを再編集して構成した30曲入り3枚組ボックス・セット。Irmin Schmidtによるセルフ・ライナーノーツ付き。アナログ・テープ・リール収納箱を模したと言うジャケットに"Long Play Magnetic Tape 540m 1800ft"と記載あり。

 

 


容に関して…各所で触れらているので、繰り返しの様ですが、とにかく音源および収録曲のクオリティが高い。音質に関してはライブ盤とスタジオ盤の差がほぼないと言ってもあながち間違いではないのでは、というレベル。また楽曲に関してもキャリア全般に渡って未発表の劇伴音楽、インプロヴィゼーション、ライブ音源など多数収録されています。誇張じゃなく未発表曲のレベルを遥かに超える楽曲ばかりです。以下に少し追加で説明しますが、「未発表アルバムが3枚一気にリリースされた」くらいの衝撃を受けました。これには一片の誇張もありません。

 

具体的な曲の中身に関してです…本作に収録されている音源はほぼ以下の3種類に分類出来そうです。

  1. 既存楽曲のベースになっているもの、実験段階のもの
  2. 新規未発表楽曲
  3. ライブ音源

本作の特徴として、かなり重点的にオリジナルアルバム曲のプロトタイプ(1.に相当)が収録されており、CANのファンにとってはオリジナルアルバムの裏側が見えるようになってます。これらのオリジナルアルバムが好きな方は購入して損することはまずないでしょうね。「収録数の多い未発表音源集だから」という理由で敬遠するのはもったいないと断言致します。ひょっとしたらCAN聴いてない人が買っても面白いんじゃ…と言うレベル(かどうかは流石に言い過ぎか…)。

 

 

 

存の楽曲、例えば「Vitamin C」なんかは「Ege Bamyasi」内では3分半くらいの曲として収録されてますけど、この曲の原型は長尺のインプロヴィゼーションから来ており、Vitamin Cはここからブラッシュアップしたものであることが分かります(ref.Disk.2-7)。ここで言いたいこと、それは実際に発売されていたアルバムの楽曲とは氷山の一角であり、素晴らしく磨き上げられた上澄み部分であると言うこと。CANの飽くなき実験精神の上に歴史を塗り替えてきた名作が屹立しているのだという裏付けに他なりません(しかもその実験部分も緊張感溢れる名演がたくさんあるんだから凄いですよね)。

 

また分類の2.については、特にマルコム・ムーニー期の楽曲が、そのキャリアの短さのわりに多数配されているところが嬉しいポイントだと思います。また劇伴に関しては普通に完成作品もあるので、クオリティはお墨付き。

3.については、ライブ音源がオリジナル曲のライブ版が多く、またCANあるあるとしてオリジナルよりも長尺化・フリーセッション化しているものです。2枚目のSpoonのなどが最高。

 

 

 

 

と言うことで、本ブログではライナーノーツを参照に曲の情報を以下にまとめて終わりたいと思います。

 

 

 

Disk.1

1.Millionenspiel (5.48) (1969) (Inst.)

映画「Das Millionenspiel」のための作品。CANがMalcomと出会う以前の、Inner Space時代の作品。Yakiはすでに所属していたため、「CANサウンド」となっています。(レコーディングは1969なので、作曲時にMalcomがいなかったと言う意味か…?前後関係が不明瞭です)

 
2.Waitnig For The Streetcar (10.06) (1968) (Malcom)

Malcomがタイトル・フレーズを連呼しまくる印象的な一曲。元はSchloss Nörvenichでのライブでのインプロより。城のスタジオを貸してくれていたオーナーのゲストのために行っていたライブ・イベントが由来。参加者の中にタクシーを待っていたり、Dorisと言う名前の人がいたり(ref.Disk.1-4)したそうで、Malcomはその人たちを意図的に困らそうとして、短い文節を執拗に繰り返すヴォーカルを演ったと言います。


3.Evening All Day (6.56) (1972) (Inst.)

CAN流アンビエント。楽器だけでなく日用機械が発する音や、椅子などの足がたてる音にも意味を見出し、雰囲気を醸成する。上手く行くと魔法のような音空間が出来上がり、身を包み込むようになるそうです。こんなことを何時間も、あるいは何日もやっていたらしい。実験精神の一曲。


4.Deadly Doris (3.09) (1968) (Malcom)

2.Waiting For The Streetcarの項参照。


5.Graublau (16.45) (1969) (Inst.)

映画「Ein Groβer Graublauer Vogel」(Eng: A Big Grey-Blue Bird)のための曲。音楽とノイズの融合をテーマとした曲。ラジオを小一時間録音して、ループ音源を作成したものを使用している。サンプリングの最初期の事例?個人的にDisk-1の中でベスト曲。


6.When Darkness Comes (3.48) (1969) (Malcom)

映画「Mädchen mit Gewalt」のプロダクションの過程で誕生した曲であり、Malcom脱退直前期の一曲。


7.Blind Mirror Surf (8.38) (1968) (Inst.)

Schloss Nörvenichのスタジオの当初の状態、それは建築廃棄物が散乱した部屋であった。しかし日が暮れると夕日が差し、部屋一杯に幽玄な雰囲気が満ち溢れる。その空間内での、また空間そのものに対する瞑想の音楽であるという。割れたガラス(鏡?)の破片を踏みしめるような音なども使用されている。


8. Oscura Primavera (3.18) (1968) (Inst.)

静謐で美しい一曲。作業のはじめの頃はなぜかよくわからない(すなわちObcuraである)がシンプルに良い曲ができるらしい。


9.Bubble Rap (9.23) (1972) (Damo)

スタジオ・ライブ in Weilerswist。Irminはこの曲を外そうとしたが、EditorのJono Podmoreは入れようとした。この曲がアルバム内の曲の年代順から外れた例外となっている(Malcom Vo.曲に挟まれた唯一のDamo Vo.曲ということ)。なおIrminはこの曲を入れたことは正解だと認めている。Damoのヴォーカルが冴え渡る一曲。蹴られなくて正解すぎる。


Disk.2

1.Your Friendly Neighborhood Whore (3.42) (1969) (Malcom)

この曲のライナー・ノーツでIrminはMalcomの独創性と機知、歓喜と狂気の感覚に非常な影響を受けたと絶賛しているが、その締めには「Thank You Malcolm」(原文ママ)と書いてある。ここで誤字ってはいけないだろう。


2.True Story (4.29) (1968) (Malcom)

Velvet Undergroundの「The Gift」を思わせるMalcomの朗読ソング。Malcom個人としての柔軟で自由な創作がバンドに与えた影響は大きかったことを忍ばせる。


3.The Agreement (0.35) (1971) (Karoli, Schmidt, Malcom)

クレジット3名によるトイレの音です。


4.Midnight Sky (2.42) (1968) (Malcom)

Live in Schloss Nörvenich (ref Disk.2-1)


5.Desert (3.17) (1969) (Malcom)

映画「Mädchen mit Gewalt」のための曲であり、「Soul Desert」(2nd Album Soundtrack 収録)の原曲。曲後半に近づくにつれSoundtrack収録版の不安定なヴォーカルに接近していく過程が聴ける。


6.Spoon - Live (16.46) (1972) (Damo)

白眉中の白眉。他のライブ音源と比べてもDamoのヴォーカルが明瞭でハキハキしており、演奏にも締まった空気感が感じられるのである。前半は原曲通りの進行だが、中盤にかけてKaroliのギター、Irminのキーボード、Yakiのドラムスが絡み合いながらのびのびと翼を広げていく。再びDamoのヴォーカルが登場する頃には、何時となくヴォルテージが高潮しており、テンポもかなり速い。後半部では更にテンポアップしてKaroliとYakiが緊張感溢れるインプロで大暴れします。暴走はするが混沌にはならないよう保たれたキワキワの緊張感必見。Yakiファンの私的には悶絶モノ。17分という長さを全く感じさせない完璧構成のライブ・インプロヴィゼーション


7.Dead Pigeon Suite (11.45) (1972) (Damo)

「Vitamin C」(4th Ege Bamyasi 収録)の原型となったインプロヴィゼーション。この曲自体は映画「Tote Taube auf der Beethovenstrasse」(Dead Pigeon on Beethoventrasse)の曲。Damoのヴォーカル部分は本家「Vitamin C」よりもファンキーだ。


8.Abra Cada Braxas (10.10) (1973) (Damo)

Irmin曰く、CANというバンドは、ライブステージ上で何を演奏すべきかわからないことがしばしばだったらしい。そのような場合にステージの雰囲気などから曲を完全即興で演ってしまったようだ。本曲は即興演奏のクオリティとは毛頭信じられない出来である。Damoの滅茶苦茶なヴォーカルが曲名の由来だろうか。

ちなみにこのような即興演奏をする場合、最終的にめちゃくちゃな演奏になってしまうこともあるが、これは「Godzillas」と呼ばれていたそうである。往々にして相当な長さの演奏になっていたという(ref Disk.3-1)。


9.A Swan Is Born (2.58) (1972) (Damo)

「Sing Swan Song」(4th Ege Bamyasi 収録)の原型。これもDead Pigeon Suiteのように長尺セッションの一部だろう。相当量の実験的セッションを更に磨き上げたものがオリジナルアルバムの音源になっていると痛感させられる。


10.The Loop (2.32) (1974) (Inst.)

曲にしたかったが、忘れ去られてしまった音源。

 

Disk.3

1.Godzilla Fragment (1.56) (1975) (Inst.)

Disk.2-8を参照。


2.On The Way To Mother Sky (4.32) (1970) (Inst.)

「Mother Sky」(2nd Soundtracks 収録)の制作過程に当たるセッション。Mother Skyの持つ緊張感を既に有している。


3.Midnight Men (7.33) (1975) (Inst.)

German TVのEurogangシリーズのための曲。派生して「Hunters and Collectors」(7th Landed 収録)になった。


4.Network Of Foam (12.34) (1975) (Inst.)

Disk.2-8を参照。同じような即興演奏だと思われる。


5.Messer, Scissors, Fork, and Light (8.20) (1971) (Damo)

映画「Das Messer」のための曲。すなわちSpoonのライブ版のような曲。このライブ版ではキーボードがSpoonそのまんまである以外はほぼ別曲。

 

6.Barnacles (7.44) (1977) (Inst.)

Rosko Geeがベースで、Holger Czukayはモース・テレグラフである。ファンキーなRoskoのベースが聴ける。ライブ音源なのかスタジオ音源なのかわからないが、インプロヴィゼーションっぽい。Yakiのファンキーなドラムとの叩き分けがすごい。


7. E.F.S 108 (2.07) (1976) (Inst.)

Ethnological Forgery Series(似非民族音楽シリーズ)


8.Private Nocturnal (6.48) (1975)

スタジオにおけるライブ・インプロ。


9.Alice (1.54) (1974) (Inst.)

映画「Alice In The Cities」の曲。徹夜で作った。


10.Mushroom - Live (8.18) (1972) (Damo)

「Tago Mago」40周年リマスターのボーナストラックとして付属していたライブ音源と同一と思われる(間違ってたらすいません)。原曲よりもWhisper気味でアンニュイ。不気味さを増した好演と思います。


11.One More Saturday Night - Live (6.33) (1973) (Damo)

安定のライブ音源。カッコ良く締める一曲。

 

 

以上です。ここまで読んでいただきありがとうございました。 

 

※追記 in 2020/06/22

CANのアルバム18作品のリイシューとIrmin Schmidtの最新ソロアルバム"Nocturne"が同時発売が発表されました。めでたい🎉

The Lost Tapesも再販されるようですから、ぜひ手に取って見てください!

https://news.yahoo.co.jp/articles/6297233ce6e4cfe4330f0bf76555a0d7fcad60cf

 

 

King Crimson - 中期3作品(1972~1974)「太陽と戦慄」~「レッド」

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 そもそも「中期」っていう言葉を軽々しく使うのが憚られるくらい、キング・クリムゾンの歴史は長く、それこそ僕の人生よりもずっと長いんですが、まあいわゆる中期の1972年~74年にかけて発表された不世出の3作品が、

  • "Larks Tongues' In Aspic" (「太陽と戦慄」)
  • "Starless And Bibleblack" (「暗黒の世界」)
  • "Red" (「レッド」)

です。1stアルバム「宮殿」で既に絶対的な評価を確立しているとも言えますが、この3作品をもってして、クリムゾンの全盛期・黄金期とする評価も多く目にします。別に甲乙つける必要はないと思いますが、「宮殿」プログレ史の金字塔として黄金の輝きを放つならば、中期の三部作は"金属"のような鈍い光が底にギラいているとでもいいましょうか。

この中期作品は、2枚目"In The Wake Of Poseidon"から4枚目"Islands"迄に培った「静」とロック本来の持つハードさ(これは物足りない表現で、ヘヴィさと言った方が良い)である「動」の対比が大きな特徴になっています。「静」は内省的な暗さであり、極まったところでは「暗黒」と言った方が相応しいような代物です。精神的な暗黒、自らに内在する、底知れぬ闇です。

 この内向きのベクトルを持つ「静」「暗黒」が、一方で外部に向いたとしたら、どうなるでしょうか。それは、圧倒的な暴力として、姿を現わすのです。凶暴な爆音が、「静」「動」の対比で目一杯に強調され、襲い掛かってくるのです。

 一方ジャズ的なアプローチとして、即興演奏=インプロヴィゼーションも欠かせないテーマとして打ち据えられています。ギターのRobert Frippは勿論、ベースのJohn Wetton、ドラムのBill Brufordを中心とした技巧的なメンバーがしのぎを削るインプロは、尋常では無い緊張感の演奏と先行きの読めぬ展開をもってリスナーに襲い掛かります。

 静謐な美しさと哀愁、動のパートの暴力性とヘヴィネス、即興演奏によるただならぬ緊張感…これらの要素は高度な演奏テクニックとバンド・アンサンブルと目まぐるしく変化するバンド内の人間関係などよって混ざり合い、メロウなポップやフォーク、ヘヴィ・メタル、また単なるジャズ・ロックとも質を異にする新たな美学を打ち立てたのです。

 後発のプログレ・バンドに、いわゆるクリムゾン・フォロワーはこの時期の音源に強く感化されたものが多く、現代のプログレでもAnekdotenやPorcupine Treeなど多くのバンドにその影響を見ることが出来ると思います。またメタル方面に与えた影響も大きかったのではないかと想像がつきます。

Larks Tougues' In Aspic(1973):太陽と戦慄

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Larks Tougues' In Aspic/ Track List
  1. Larks Tougues' In Aspic, Part One (13:35)
  2. Book Of Satarday (2:56)
  3. Exiles (7:41)
  4. Easy Money (7:53)
  5. Talking Drum (7:26)
  6. Larks Tougues' In Aspic, Part Two (7:07)
Personnel
Impression

 Robert Fripp翁が1972年にそれまでのバンドにおける軋轢を解散によって消去し、新たな構想の実現のためメンバーを集めました。同じくプログレバンドのYesから引き抜いてきたBill Bruford(Dr)と旧友のJohn Wetton(Ba/Vo)、そしてヴァイオリンのDavid Cross(Vn)、即興集団のパーカッショニストだったJamie Muir(Per)です。

 Jamie Muirは本作の重要人物です。中期クリムゾンの切迫感と面妖な雰囲気を引き立てる名演で大きな役割を果たしました。滞在期間の短さからライブ映像は多く残っていませんが、以下の動画で珍しくも演奏してる姿が見られます。ホイッスルを吹き周りバンドを鼓舞する様は、珍妙な用でありながらも、常軌を逸した雰囲気を与えています。なお、Muirは本作発表前に脱退の意思を表明していたと言われています。


KING CRIMSON - Larks' Tongues in Aspic, Part One

 また、アルバム全体としての完成度という点において、最も隙がない作品であると思っています。頭と締を飾る表題曲のパート1およびパート2、Wettonの哀愁あるヴォーカルやCrossの扇情的なヴァイオリンが美しくも儚い"Book Of Staurday""Exiles"、Muirのパーカッションとウェットンのスキャットが不穏な"Easy Money"など各メンバーの持ち味が活かされており、曲のバリエーションに事を欠きません。

 曲順も完璧で、強烈なイントロと中盤のインプロそして不気味なエンディングの"Larks Tongues' In Aspic Part One"から始まりしっとりした味わいの"Book Of Staurday""Exiles"が続くA面。

 B面は不穏な"Easy Money"から始まり、インプロ的な"Talking Drum"が緊張感を束ね上げ、エンディングで一気にブレイク、"Larks Tongues' In Aspic Part Two"へとなだれ込む流れは完璧です。各曲の完成度もさることながら、計算され尽くした曲順がアルバム全体を一層張り詰めた作品へと持ち上げます。


Melody Lark's Tongues In Aspic Pt II (Crossのヴァイオリンがアンプに繋がってますね)

 続く2作も当然ながら名盤の誉れ高いですが、本作をクリムゾンの全てのスタジオ・アルバムの中の最高傑作とする意見も多くあるようです。三作では最初に"Red"で感銘を受けた私も聴き込むにつれ、単純なアルバム完成度の観点で見れば本作が最も上ではないかと感じるようになりました。メンバーの指向性の相違によってグループは崩壊しながらも、名作を世に送り出した中期クリムゾンですが、メンバーに最も恵まれた状態で制作された本作では、各個性を活かした幅広い表現がなされ、また非常によく構築された作品となったことは、ある種当然のことであるように思います。

 

ジェイミー・ミューア在籍時の音源で、素晴らしいクオリティのライブ盤もオススメです。

geeked.hatenablog.com

 

Starless And Bible Black(1974):暗黒の世界

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Starless And Bibleblack/ Track List
  1. The Great Deciever (4:03)
  2. Lament (4:06)
  3. We'll Let You Know (3:42)
  4. The Night Watch (4:40)
  5. Trio (5:39)
  6. The Mincer (4:09)
  7. Starless And Bibleblack (9:11)
  8. Fracture (11:12)
Personnel

Impression

 "Starless and Bibleblack"(邦題:暗黒の世界)はインプロヴィゼーション(即興演奏)に比重をおいたアルバムになっており、#1と#2以外の曲はライブ演奏やこれを元に編集を施した楽曲となっています。ライブ演奏特有のローファイ感、そしてモノトーンな音像が陰鬱な曲調によく一致しています。中期三作品の中では比較的地味な印象のアルバムではありますが、ライブとインプロ主体のアルバム構成なので、単純にスタジオ・アルバムとしての完成度を意図していないだけとも思えます。#2,#4など叙情性溢れる名曲、インプロヴィゼーション特有のグルーヴの構築経過が見れる#3や、あえてBrufordがドラムを叩かなかったという#5、次作の大トリ"Starless"と同様の曲構成(構想)を既に覗かせている#8など、欠かせない曲ばかりであり、やっぱり名盤ですよね。

 ニヒルな雰囲気のあるリフから始まる#1"The Great Deciever"は本作が持つ狂気と、その裏側にある空虚な冷たさを象徴しているような曲です。

 #2"Lament"は曲名からして既に暗いのですが、Wettonの哀愁のあるヴォーカルパートが終了すると、ヘヴィなベース・リフから不穏が加速します。脱退したMuirに代わってパーカッションを務めるBrufordもいい味を出しています。


Melody Lament

 #3の"We'll Let You Know"は即興演奏感の強いスカスカ演奏パートもありますが、Wettonのベース・リフを中心に曲が展開し、Brufordのドラムがしっかりとリズムを刻み出すところで一気にグルーヴが生まれてきます。これこそ即興演奏の妙味のひとつなんでしょうか。個人的にとても好きな曲。

 #4"Night Watch"はしっとり路線でWettonの哀愁ヴォーカルとFrippのギターがとても儚い。Crossは序盤と終盤でヴァイオリン、中盤はメロトロンを奏しています。イントロだけライブ演奏で後半はスタジオ収録とのこと。


Melody Nightwatch

 #5"Trio"はベース・ヴァイオリン・メロトロンによる掛け合い。とても即興演奏とは思えません。Brufordはスティックを胸前でクロスさせ、不参加の意思を示したそうです。後半のベース・リフがとても優しく、Wettonのメロディ・センスを感じます。

 #6"The Mincer"は不穏路線、再び。これも即興演奏らしいが全くそうは思えない。緊張感に満ちた曲。ヴォーカルのみスタジオ録音とのこと。言われてみるとヴォーカル・パートでベース・リフが元気になっていたので、ヴォーカルが付け足されたものであると納得しました。

 #7"Starless And Bibleblack"はあまりに強烈な即興演奏の世界に突然放り込まれたような感覚になる一作。ラストのブレイクまでは、メイン的なメロディがなく、リズム隊の掛け合いにギター・メロトロンが絡んでいく感じ。ちょっと難しい…。もう少し歳食ったらもっとよく味わえるようになりそうだと思ってます。1973年のアムステルダム公演が使用されているようなので、これを全編納めたライブ・アルバム「The Night Watchで聴くと全く別に聴こえるかもしれません。

 #8"Fructure"は本作の大トリ。Frippの高速アルペジオ的なリフを各所でフィーチャー。メイン・テーマが一旦登場したのち、超高速アルペジオのパートに。そこから締め付けるように一段のリフレインをなぞったパーカッションによる緊張感煽りのパート。パーカッションがヴァイオリンに変化して更に煽りまくる。溜りに溜ったところで一気にブレイク!そしてメイン・パートをハードなアンサンブルでもう一度…!メイン・メロディ→静寂のパート→緊張感煽り→メイン・メロディに回帰、みたいな流れって次作の"Starless"において完成する構想ですが、本作から既に見られているところが面白い。作曲クレジットがFrippのみなので、しっかりと構築された楽曲らしいところからも裏づけられます。


King Crimson - Fracture (OFFICIAL)

 異常に張り詰めた演奏は最早即興とは思えないレベルの完成度となっていて、これをライブでやり続ければ、誰もが疲弊するよなぁ…と、特にクラシック志向のCrossはさぞや大変だったのだろうと想いを馳せます。本作をもって脱退したのも無理からぬや。

 余談ですが何故か図書館のCDブースにクリムゾンだと本作のみが置いてあって、借りたのがいい思い出です。何故かそのバンドの超代表作って感じでもない作品だけをあえて置いてある図書館って近所にありません?(笑)

Red(1974):レッド

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Red / Track List
  1. Red (6:16)
  2. Fallen Angle (6:03)
  3. One More Red Nightmare (7:10)
  4. Providence (8:10)
  5. Starless (12:17)
Personnel

Impression

 前作"Starless And Bibleblack"を最後にヴァイオリンのDavid Crossが脱退、バンドはギター・ベース・ドラムのギリギリ編成となってしまいます。Ian McDonaldとMel Collinsら旧メンバーがゲストとして参加し、本アルバムは完成に漕ぎ着けたようです。

 また脱退したDavid Crossもクレジットされていますが、ライブ・インプロヴィゼーション(#4)に参加していたのでクレジットされたにすぎません。

 アルバム制作当時の段階でRobert FrippとJohn Wettonが相当不仲な状態になっていたようで、一緒に写真も撮ることができず、アルバムアートワークの写真は別々に撮影した3人をモノクロにして合成した、という逸話が残っています。メンバーの不仲によってバンドが崩壊してしまったことが解散の決定的な原因となったのでしょうか、本作発表直前にRobert FrippがKing Crimson解散の宣言を出したことにより、King Crimsonの歴史に再び終止符が打たれます。(まあ80年代に活動再開しますが)

 解散することが決定的となった上で制作されたと思われる本作は、中期クリムゾン3作品の中で圧倒的にわかりやすい作品となりました。#1"Red"はハードなギター・リフが緊張感を煽る序曲。3人とは思えぬヘヴィなアンサンブルで聴かせます。

#2"Fallen Angel"は哀愁の曲。メロトロン、オーボエ、アコースティックなFrippのギター、そして何と言ってもWettonのヴォーカル・ワークによる悲しい歌詞がタマらなく、どこか遠くを見つめてしまいたくなります。サビではエレクトリックな展開に移行。コルネットもフィーチャーされているようです。

#3"One More Red Nightmare"はまたヘヴィなギター・リフが曲を先導。クラップ音にはリバーブ?のようなエフェクタが掛けられていて、太陽と戦慄の"Easy Money"のような不気味な雰囲気を醸しています。上記3曲は、繰返しの展開を多く用いているため、曲構成はわかりやすくなっていますが、曲の鋭さは以前にも増しているようです。またFrippのギター・リフが前に出て、曲を先導する傾向が増加しているようです。Crossの脱退により、バンドのバランスは危機的状態に陥り、Frippの強権的な姿勢が顕在化したようにも感じられ、面白いです。

 #4"Providence"インプロヴィゼーションアメリカのProvidenceで行った公演から。序盤からDavid Crossのヴァイオリンの緊張感は破裂せんばかり。張り合うのはWettonのベース・リフ。Brufordのドラムスがテンポを煽るように参入してくると、演奏もスピード感を増していきます。Wettonのベース・リフが暴れまわる独壇場…と思いきや、Frippのギターも激しく呻き出します…。即興演奏による張り詰めた緊張感が途切れない一作。本作の全体的な音作りの傾向からは少し離れていてやや前作寄りか。それでもやはり素晴らしき哉、即興演奏。元になった即興演奏はライブ・アルバム"The Great Deciever"で聴けるようです(まだ聴いてないので反省してます)。

#5"Starless"。場に満ちるメロトロンの情感とFrippの硬質なギターが絡み合う出だしから哀愁が溢れる。Wettonのヴォーカルも最高潮に渋く、底暗い歌詞を歌い上げます。プログレッシブ・演歌とは言い得て妙かな。中間パートはFrippのギターが場を支配。ベースは地をうねり、パーカッションが1音を選ぶように重ねられ、緊張感が異常なほどに高まります。単調なフレーズを重ねるギター・ベースを側に暴れまわるBrufordのドラムが最高。支配的なギターのフレーズが変化すると、いよいよ…といった雰囲気でタイミングを合わせ、一気にテンポ・アップ!先ほどまでのフレーズが凶暴度と速度を増して繰り返されます。Mel Collinsのソプラノ・サックス、Ian McDonaldのアルト・サックスも参加し、最後のリフレインが繰り返され、曲は再び暗黒に戻っていくように、消えていくのです。King Crimsonも消えて、最後には暗黒だけが残るのだ…。

 Wettonのメロディ・センス+Frippの緊張感&凶暴な演奏パート=名曲っていう印象があったけど、歌詞は専門のPalmer-Jamesによって書かれた("Starless and Bibleblack”の歌詞はWettonが執着した部分なので、書き換えられた)ものなのでちょっと理解が違うかも…?CreditにはCrossの名前もあり、脱退前から存在していた曲なのではないかと思います。 12分が一瞬の名曲。


Melody Starless ↑これDavid Crossいるけどいつ撮影したんだろうね

 

 バンドがいい曲や名盤を作るタイミングって法則があると思いますが、バンドが崩壊するまで、崩壊する直前といった時期にはやはり名盤が多いように思えます。特にこのバンドの場合、演奏や環境をキワキワに追い詰めて緊張感を出し切りながら駆け抜けていったのであり、そこには様々な「限界」が、次々と立ち塞がっていったであろうことは、想像に難くありません。それでも、そのような「限界」に向かって挑戦していく過程における産物こそ名盤であり、ここで取り上げてない様々なライブ音源もまたそうでしょう。たとえその行き先が崩壊と虚無であったとしても…。

 

【音楽レビュー】CORIMA - AMATERASU(2016)

CORIMA、Los AngelesはCariforniaのバンドです。Band Campのディスコグラフィに寄れば本作は4年振りの2作目のアルバムとなります。

レーベルはSoleil Zeuhl。フランスのジャズ・ロック、プログレッシブ・ロックズールなどを主に取扱うレーベルからの発表です。DÜNも同レーベルから作品を発表しています。

レーベル(Soleil Zeuhl):http://www.soleilzeuhl.com/

 

このバンドの説明をする前にZeuhlについて説明をしなければなりません。

ズール(Zeuhl)というのはプログレッシブ・ロックから派生した音楽ジャンルのひとつ…というよりはむしろフランスの伝説的バンドMAGMAの音楽を指す用語でした。

MAGMAの創始者であるクリスチャン・ヴァンデは敬愛するジョン・コルトレーンの死をきっかけに天啓を受け、ある音楽を始めることとなります。それはコバイア星から地球を侵略しにやってくるコバイア星人の言語「コバイア語」を用いたロック・オペラのような音楽です。

大人数による演奏と男女混成の呪術的な合唱、ドラム・ベースが奏でる低音による壁のような脅迫性、偏執的なフレーズの反復といった衝撃的な音楽性は、一聴にすれば脳裏に焼き付き、簡単に剥がれることはないと断言出来ます。ヴィジュアル面でのインパクトも極大!

 


Magma - De Futura (high quality)

 

この強く印象的な、強烈な音楽に魅せられたバンドがMAGMAのフォロワーとなり、同様の音楽を志向するようになります。かくしてMAGMAの音楽を指す用語であったZeuhlはジャンルを指す言葉としても成立するようになりました。

これでようやく本題のCORIMAの方に移って行くことができます。

CORIMA : Personnel

  • Andrea Calderón - violin,vocals
  • Paco Casanova - keys, synths, organ, vocals
  • Patrick Shiroishi - saxophones, guitar, glockenspiel, vocals
  • Ryan Kamiyamazaki - bass
  • Sergio Sanchez Ravelo - drums

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AMATERASU : Track List

  1. Tsukutommi Ⅰ
  2. Tsukutommi Ⅱ
  3. Tsukutommi Ⅲ
  4. Amaterasu Ⅰ
  5. Amaterasu Ⅱ
  6. Amaterasu Ⅲ
  7. Amaterasu Ⅳ
  8. Amaterasu Ⅴ
  9. Amaterasu Ⅵ

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Band Camp:https://corima.bandcamp.com/

CORIMAはアメリカのバンドですが、バンドメンバーの名前を見るに、日系アメリカ人らしき人物がふたりいるようです。そのためか今作は日本の神々をモチーフとしたアルバムになっています。アルバムアートワークは同じくZeuhlバンド「高円寺百景」のそれっぽくもあります。構図とカラーリングのデザインは結構いい線いってると思うんですが、どうでしょうか。

曲はパート分けをするタイプの大曲構成で実質2曲です。

モチーフとなっているのはTsukutomi=月読命(誤字か?)とAmaterasu=天照大御神の二神。神話関連は詳しくありませんが、月読命天照大御神の弟神に当たるようです。

(月読命の性別に関する記述はないものの、一般的に男神とされることが多いようです)


Corima ► Tsukutomi [HQ Audio] Amaterasu 2016

 1曲目"Tsukutomi"はグロッケンシュピールらしきイントロから男女混成コーラスによる静謐で美しい雰囲気からスタートします。コーラスが止みピアノの伴奏のフレーズが加速するところから本番、手数の多いドラムとドライブしまくるベースによる変拍子の応酬!リズム隊以外で主にフィーチャーされているのは、サックス、ヴァイオリン、シンセ。ギターの影は薄めです。音像の構築にもこの3楽器は大きく貢献していて、フェーズを経て追い込まれるようにピッチを高めていく各フレーズが、テクニカルかつタイトなリズム隊と協同して緊張感と高めます。現代の楽器を使用しているにも関わらず、偏執的なリズムに追い込まれて行くうちに神話的な世界観のイメージが醸されてくるように感じるもの不思議です。アートワークのなす業も大いにあるかもしれません。暴れまわるヴァイオリンをフィーチャーしているところはKing Crimsonの「太陽と戦慄」が好きな人にとっては相性が良いように思われます。2曲目のAmaterasuと比較しても、テクニカルなリズム隊、変拍子などによる緊張感、バリバリに構築された楽曲構成が特徴的です。ある意味「男性的」な曲というような印象もある気がします。

2曲目"Amaterasu"ははっきりとしたメロディラインのないピアノからスタートします。相当に実験的で気まぐれにも思われるその構成は「女性的」な印象を受けます。Ⅱではシンセとヴァイオリンをフィーチャーし、不穏な空気を醸成しています。神話上における天照大御神の「天岩戸隠れ」により日本中が闇に包まれ様々な禍が発生したという故事に通ずるような雰囲気を感じます。Ⅲでは1曲目では控えめだったヴォーカルワークを多くフィーチャーしており、「太陽の神様の愛」の反復や「まだかァ!」というような狂気の叫びが曲の切迫感を一層高めていきます。Ⅳで変拍子のフレーズが反復され極極まで高まると一瞬ブレーク。ⅤからはⅥ終盤まで緊張感あふれる展開が途切れることがありません。相変わらず7拍子などを基調とした変拍子を元に楽曲を構築しているが、1曲目よりもリズム隊がやや控えめとなりサックスが縦横無尽に活躍。細い女性コーラスは日本語でもなく、何を言葉にしているのか判然としません。あまりに緊張感のあるフレーズが連続しすぎてだんだん慣れてきてしまうのがやや怖くもあります。もう少し曲の時間を短くすれば緊張感を喚起できたような気がしてしまいます。しかし最後は変拍子に加え演奏速度も早くなり、緊張感はひとしお。「アマテラスは帰らず」(?)と聴こえるコーラスが反復され一気にブレーク。思わず呆然としてしまいます。

 

演奏技術、楽曲の構築、独特な世界観など完成度の高い作品でなかなか侮れません。次回作にも期待しています。

以前はサブスクリプションもあったのですが、撤退?したようです。手に入れるなら是非Band Campで!

Number Girl@日比谷野外音楽堂2019

私は1996年生まれですので、Number Girlが結成されてから解散するまでの間、一度たりともその名を聴いたことはありません。

 

そしてNumber Girlを初めて知ったのがいつなのか、何から入ったのか、はっきりと覚えてはいません。

 

中学の時分通っていた個別指導塾の講師O先生は当時のライブに参加したような熱量でNumber Girlを語ってくれたのを覚えていますが、その時私が脳内に浮かべていたのはYoutubeでみたラストライブのOmoide In My Headの映像でした。

 

つまり私にとってNumber Girlというのは、その音楽の良さとは全く別の次元において、歴史上のバンド以上以下の存在ではありません。

 

私がYoutubeのライブ動画から観客の並々ならぬ熱量を貰い受けたとしても、ある種バーチャルな、十年余の時差ある感情に過ぎなかった訳です。

 


NUMBER GIRL - OMOIDE IN MY HEAD (last live, last song)

 

つまり再結成に対する私の感情はある種「人ごと」にならざるを得ません。喜ぶことは出来ても往時を目にしていないものには実感が伴わないからです。

 

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ライブが始まった時に感じたことを率直に述べるならば、「Number Girlが姿を見せてくれ(るような事態になっ)たのだ」という感じがいたしました。また不思議とZazen Boysのライブで既に目にしていた向井秀徳は別人のような印象でした。

 

そして、ここに初めて私の中の"Number Girl"が「始まった」のだと、そう感じました。

 

「大当たりの季節」から始まった彼らのライブ演奏は、驚くべきことに音源そのままの音を鳴らしていました。向井秀徳は事前のインタビューか何かで我々も歳をそれなりにとったというようなことを発言していたような記憶がありますが、それぞれアーティストとして得たものこそあれ、失ったものは少なかったのではないかというように私は感じます。

 

続く「鉄風鋭くなって」では一気に会場のヴォルテージが上がり、私も興奮抑えやらぬ状況になっていました。この辺りからライブを通じて理解していったことがあり、それは中尾憲太郎のベースの異常なほどカッコ良さ。ギターのようにダウンピッキングするそのスタイルは向井や田渕がギターを持ったSAMURAIにみえてくるのと全く同じ様でした。これベースというよりダウンチューニングした低音のギターみたいなものとしか思えません。同時にある意味一人でリズム隊を支えるアヒト・イナザワのその凄まじさもみえてくるようです。

 

曲についてはどれも素晴らしかったですが、いちいち書こうとは思いません。印象深かったのは"Young Girl Seventeen Sexually Knowing"、野外音楽堂の空天井が丁度夕暮と太陽が沈み切る間に少しテンポを落として歌われたこの曲は、時間と場所と記憶を貫通して私の心に突き刺さり続けると思います。

 

意外だったのはライブ映像をよく観ていたためか、会場の曲に合わせたコールに初見で対応できたこと。往時は知らねど、息のあった会場の雰囲気に一層テンションがうなぎ登りしました。

 

また個人的なフェイバリットである"SAPPUKEI"から"SASU-YOU"と"TATOOあり"と"U-REI"が連チャンで歌われたのも嬉しかったですね。少し残念だった点としては”EIGHT BEATER”を歌う頃にはシャウトがややキツそうだったことか。(アンコール登場時には「ぶっ倒れそうですけども」といっていたしギリギリだったのだろう)

 

あと"桜のダンス"、"Tombo The Electric Bloodred"、"INUZINI"、”BRUTAL NUMBER GIRL”など聴きたかった曲がまだまだあったこと、これに関しては次のライブも発表されていますから、「逆噴射バンド」応募していけばそのうち叶うと思っております。というかライブ終了した時点でまたNumber Girlが見たくなっていたのも事実です。

公式ライブ情報:https://numbergirl.com/live

 

また新たに始まったNumber Girlの歴史を、この都度は実感をもって追いかけていくということが私の今後の大きな楽しみの1つとなった日でした。

 

 

Suchmos - The Anymal(2019)

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間が空きすぎました。

そして久々でちょっと意外なチョイスです、Suchmos

 

Stay Tuneで一世を風靡して,NHKのタイアップもゲットしたSuchmos。その曲"VOLT-AGE"からは「アレ?何だろうこの盛り上がらん感」みたいな違和感がありました。紅白のパフォーマンスもいろんな意味でヤバかった記憶。


Suchmos 「VOLT-AGE」2018.11.25 Live at YOKOHAMA ARENA

 

言うなればこの頃からあった兆候が爆発しているのが本作。

 

これが度肝を抜くような6-70年代サイケデリックロックまんま

 


Suchmos "In The Zoo" (Official Music Video)

 

散々言われてることだろうけど「広くて浅いやつもうGood Night」と歌った彼らが全力で広くて浅いやつらを吹っ飛ばしにきてる。それくらいぶっ飛んでる。これまでとは感性の方向が270度くらい違うし、もはや別バンドやろ。

 

しかし私はこのアルバムを貶めたいのではない、それどころか本作は素晴らしい作品だと賞賛したいのです。

 

本作の方針は"VOLT-AGE"あたりから漂っていた「やりたいことをやる」という方針の極地でしょう。やりたいことに全振りしているからこそ、完成度がメチャクチャ高い。私の貧相な知識だとパッと喩えられないけど、ダウナーなサイケデリックロックに初期のハードロックの成分を足したような、ブルースみたいな感じって言ってもいいのかな。The Beatlesなどを含む6-70年代ロックへのリスペクト−

それと同時に古き良きとも言える音楽を再興して現代という時代性をも巻き込まんとするオリジナリティと気概を感じずにはいられません。

 

要するに

「この現代の、しかも日本という音楽シーンで、大衆の支持を得てきたバンドが突然変異して質の高い70年代サイケデリックロックをやる」

 という流れは面白くてしょうがないのです。

 

これは単純なリバイバルに留まりません。現在のシーンを無視したのではなく、むしろ停滞気味の邦楽シーンに対する痛烈な批判とも受け取ることが出来るからです。

 

本作が邦楽シーンにどのような影響を与えていくのか、また世間にどう受け入れられていくのか…。

 

とまあちょっと規模の大きいことを書きたくなって書いてしまいましたが、

 

普段洋楽しか聴かないような方や、本ブログで取り上げているような音楽を射程としている方にこそ、聴いてみて欲しい作品だと僕は思います。

 

期待に応えるだけの十分な強度が本作にはあります。

 

その一方でシティ・ポップなどとしてハマってきたファンを洋楽に繋げて行くような橋渡しの役割も果たしていて、本当に面白いなあと思います。

 

My Favorite

#3 In The Zoo

イントロギターが最高。暗くてしっとりとしたアイロニーに心地良さを感じずにはいられないタチなんでしょう。

#5 Indigo Blues

 イントロの長いタメからジャキジャキしたギター、ネットリと支えるベース、リンゴ・スターのようなヘタウマドラム、そしてYONCEのファルセットとコーラスが気持ち良い。最後の転調で視界が開けるようにビートリッシュな展開に入るのも最高です。

【メーカー特典あり】 THE ANYMAL (完全生産限定盤) (LP) (ステッカー付) [Analog]

【メーカー特典あり】 THE ANYMAL (完全生産限定盤) (LP) (ステッカー付) [Analog]

 

 

 

Church Of Misery ワンマン2019 @ 高円寺二万電圧

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つい先日の5/12は日曜日、そして日本が誇るドゥーム・メタル・バンドChurch Of Miseryのワンマンライブの日であった。

Church Of Miseryは昨年知人に教えていただいた。知ってからまだ1年も経たないのだが、昨年の個人的No.1趣味にブッ刺さったバンドでもあり、昨年末のワンマンライブにも知り合い共々参加して、大満足だったのは私個人の記憶に新しい。

海外で評価・知名度が高いからか、元々日本での活動がそこまで多くないバンドなのに、この短期間で2回もワンマンを開催しているのは結構珍しいことなんではないかと思う。幸運だなあ。

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会場は東高円寺の二万電圧だ。昨年末のワンマン会場であった渋谷Cycloneよりも更に狭い箱で雰囲気十分。前回よりもバンドとの距離が圧倒的に近く感じたので、演奏もすごいことになるのでは…と思っていたけど、案の定前回を上回る爆音だったような気がする。聴いていると爆音でどんどん耳が狂ってくるので正常に判断出来てる気がしない。

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会場で例の知人と落ち合って少し話す。周りはやはり1,2周りくらい年上が多いような気がしたが、そこそこに若い世代もいるのを確かに感じた。あと外人多いな。そうこうするうちに"Green River"がかかりVo.以外のバンドメンバーが入場。一気に場の雰囲気が禍々しくなりヴォルテージが上がる。調整の段階でもう思うけどやっぱ音デケエな!!この瞬間に2日続く耳鳴りはもう宿命付けられている。いざ!

1曲目は最新アルバムの"And Then There Were None"の#1"Hell Benders"。てっきり1曲目は"El Padrino"かと思ってたのでこれは意外だった。いつの間にかVo.のHiroyuki Takanoが現れ曲が進行していく。2曲目には定番曲"I, Motherfucker"。テンポの早めの曲で一気にヴォルテージが上がり、Murder Freak達の一体感も揃ってくる。3曲目は"Megalomania"。ウォー!もうこれやるんだ!!って感じ。4曲目からは実は曲名がわからなくなって覚えるのをやめてしまった。次回までにもっと聴き込んでイントロ曲名ドンが出来るようにするのが当分の目標です。

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その場で感じる圧倒的な重低音は勝手に抱いていたイメージを遥かに上回る迫力でブッ飛ばしてくれる。私はニヤケがとまらなかった。そして何より「振動」。身につけている衣服、髪の毛、皮膚から臓器に至るまで身体の全てが揺さぶられる。。鼓膜を通じて脳で音楽を聴く一方で、まさに身体全体が大きく振動し、音楽に周囲が満たされている感じがした。(臓器って言っても胃の振動は空腹もあってマジで感じました)

どのくらいの振動なのかを言葉で伝えるのは難しいのだけど、私がライブ中に体験した感覚が一つある。ずっと直立でライブを聴いていると足が疲労してくるため、片足を持ち上げることがある。その時持ち上げた方の足に異常に違和感があった。これは満員電車に乗っている時などに、他人が自分の靴紐を踏んでしまっており、足を持ち上げることで自分の靴紐が解けてしまう気持ち悪さに似ていた。会場は混雑しているのだからしょうがないことか、と思っていたのだけど、どうも実際に靴紐を踏まれているわけではないらしい。じゃあその違和感はなんだというと、演奏による「振動」が原因。靴はちょっと素材が軽めのブーツ、そして足と靴の間に隙間が多くあったので、それぞれの空気が演奏で振動していたのだ。これがもう携帯のバイブレーションかというくらい揺れるので、演奏横目にとても驚いてしまった…。

とまあ体験は大したことではないのでどうでも良い。とにかく演奏の迫力は言葉では書けない。動画でもとても体験できるものではない。


20190512 Church of Misery at Higashi Koenji 20000V “Brother Bishop”

Vo.Hiroyuki TakanoのMCも最高でした。

「世間の腐った豚どもを◯さんといかん」「Doom地獄へようこそ」

「石鹸の裏が水に濡れていたら人を◯さなければいない」(うろ覚え)

「俺らはもうファミリーだ」「Doom地獄は終わらない」等

怪しいテルミン演奏と腕につけてた「撲殺」の刺繍入り(お手製?)バンドがイカしていた。最高。

間の演奏の正確な曲順は忘れたが、最新アルバムの曲を多めに演りながら、Encore2で"El Padrino"を演るなどライブ定番曲も欠かさず大満足!

曲に関してはほとんど全部やってるんじゃないかってくらいの分量。あとで見たら正味2h45mも演ってたからな。後半(私が)相当疲労してしまってました。それに比べてバンドメンバーの体力はもの凄いのだと思い知った。聴く方にも体力が必要だな。これもまた次回への目標に…。

ちなみにセットリストはSetlist.Fmに完璧なのがありました。(と思ったけど"B.T.K."とかやってませんでしたっけ??思い違いか?)

今回は最新アルバムの比重が大きめのセットリストだったことがわかります。しょっぱなそうだったしそんな気はしてた。

(今の編成で録音して新譜出さないのかな?というか出して欲しい) 

今回のライブショップには新しいTシャツ、パーカーと"Vol.1""Early Works Compilation"のカセットが販売されてましたが、金欠なので今回は断念。

知人とライブハウスの向かいにある麺屋えん寺で麺喰った。何も喰ってなかったのでとても美味かった。そして帰宅した。

明らかに可聴域狭くなってるし、耳鳴りもひどかったけど、満足度は相変わらず最高だった。次回が待ち遠しい。

彼らのアメリカツアーの成功を祈ります。(そして新譜も待ち望んでます)

【音楽レビュー】Kingston Wall - Tri∞Logy(1994)

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フィンランドヘルシンキのサイケ・プログレッシブロックバンド、Kingston Wall。私も知ったのはごくごく最近ですが、検索しても記事数が少なく、あまり知名度の高いバンドではないと思われます。リンクにもあるブラックメタル好きの方に教えていただいて聴いたのが端緒。

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本作はアルバムタイトル通り3枚目のアルバムで、1,2枚目はそれぞれ"Ⅰ","Ⅱ"というタイトルだった。だからこの時点でもうプログレ好きとしてはなんとな〜くコンセプト性みたいなのを感じて当たりアルバムの雰囲気がビンビンしている。

実際に聴いて見ると途切れることなく続く小曲のメドレーが大曲構成のような効果を発揮するし、大曲も後半に聳えているし、コンセプトアルバムっぽいしでプログレ好きな私としてはとにかく最高だった!

 


Kingston Wall - Tri-Logy (Full Album)

 

90年代サウンドがそこまで好きではない自分でもすんなり受け入れられたこのバンドは、ジミ・ヘンドリックスレッド・ツェッペリンそしてピンク・フロイドの影響が色濃く、そこにオルタナティブの成分を混ぜたような音楽を奏でる。そして東洋的な神秘主義のフレーバーも混ざり込み、サイケデリックな音楽性を持ち味にしている。

70年代の音楽が好きであれば美味しく聴けると思うが、むしろ90年代サウンドが好きな人は聴いていて辛いのではないかというような気がしないでもない。

Track List/////////////////////////////////

#1 Another Piece of Cake

#2 Welcome to The Mirror

#3 I'm The King, I'm The Sun

#4 The Key: Will

#5 Take You To Sweet Harmony

#6 Get Rid of Your Fear

#7 When Something Old Dies

#8 Alt-Land-Is

#9 Party Gose On

#10 Stuldt Håjt

#11 For All Mankind

#12 Time

#13 The Real Thing

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Personnel//////////////////////////////////

Petri Walli - Guitar, Vocal

Jukka Jylli - Base

Sami Kuoppamaki - Drums

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おそらくこのPetri Walliという男が全ての元凶(褒め言葉)であり、バンドの中心人物であろう。写真を見るだけでこの怪しさがもう最高である。絶対にクスリ決めてる。東洋思想とかに変に片ハマってしまって変な魔術の研究とかしてそうな顔してる。

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最っ高に怪しい(べた褒め)

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魔術師ポーズしがち


曲紹介

なんと#1~#10まではメドレーである。実質的に4曲しか入っていないと言っても過言ではない。

#1 Another Piece Of Cake ~ #10 Stuldt Håjt

メドレーである。Walliによるヴォーカルとギターがやはり東洋的・サイケデリックな雰囲気を作っている。長尺を3ピースで通していくのだが、ドラムスの仕事量が尋常ではなく、退屈させないよう多彩なパターンを披露している。Walliのギターがピロピロ〜とどこかに行ってしまう時にも、ドラムス(ベース)が下支えをしっかりとしているので曲展開が崩壊しない。逆にドラムスが暴れまわる時には、ギターは支えるようなフレーズを弾いていることが多いため、全体で自由度のバランスを取りつつ、入れ替わり立ち替わり展開するという感じだと思われる。歌詞の内容はざっとみたところ人生哲学から社会問題まで様々である。Ior Bockという神話学者の影響を受けているらしい。

メドレー前半は数分程度の曲とインタールード的小曲のサンドイッチの展開となるが、哲学・神話的メッセージが爆発する"#8 Alt-Land-Is" (アトランティスのもじり)からタイトル通りの歌詞を演説的に刷り込むような"#10 Stuldt Håjt"に至るまでの高揚感が素晴らしい。

#11 For All Mankind

#10とは区切れているものの、曲調そしてフレーズは#1~#10の流れを汲んでいるため、連続曲、あるいはメドレーの〆と見ても良いかもしれない。その中では特にギターのフレーズを強調した曲に感じられる。ほぼフレーズ1つで6分持たしている。ギターフレーズが比較的堅実に支える代わりにドラムスがかなり自由に叩いている印象がある。

#12 Time

イントロのギターが最高すぎる名曲。イントロでもうノックアウト。こういうのエモいっていうんだ。エモいって言って何が悪いんだ畜生。そしてWalliの独特なヴォーカルが曲に完全にマッチしている。歌詞と曲のテーマからみて「今こそ真実に到達する時」だというような曲らしい。彼らは真実を知り、それを人々に伝えるという状況だ。その時彼らの意志は意外にもある種の落ち着き、そして哀愁を帯びた曲として現れてくるのだ。名曲。ちょっと冷静に見直して見ると私自身はやっぱり哀愁漂う曲調が好みなのではないかという気がしてくる。内面の深刻な老化。De-アンチエイジング

 


Kingston Wall - Time

#13 The Real Thing

ズバリ『真実』。18分の大曲でイントロも4分程度あり、しっかりと雰囲気を醸成する。曲の構成は意外にもわかりやすく、必殺のサビが映えるようになっている。これまでの3ピースバンドアンサンブルに加え、サックスを導入しソロで大胆に導入。ちょっと狙い過ぎな感じがしないでもない。が名曲には違いない。


Kingston Wall - The Real Thing (Full song)

おわりに

全くもってクレイジーな素晴らしいアルバムである。彼らのこの後の作品も聴きたいと思ったのだが、この作品を制作後、Vo.のPetri WalliはTooloの教会から飛び降り自殺をしてしまったという。自殺の原因としてはIor Bockの神話理論に対する信頼を喪失し、"Tri-Logy"の哲学を中心としたテーマをもはや後悔していたこと、もしくはガールフレンドとの別れなどが可能性としてあげられている。アルバムで後悔したなら別の作品で挽回すれば良いのだろうと私は思ってしまうが、まあ要因をひとつに絞るのは無理がある。クスリもやってただろうし。誠に残念至極だ。生きているうちにライブを見られればどれだけ幸せだっただろうか。生まれる前の話なので悔やんでもしょうがない。Petri Walliの冥福を祈る。しかし彼にとってこのアルバムのテーマがもはや意味をなさなくなっていたとしても、その音楽は紛れも無い傑作であることに変わりはない。むしろ当時そのテーマに対して抱いたPetri Walliの信頼・興奮・インスピレーションはアルバムの尽きることのないテンションとアイデアに姿を変えた。そこにはもはや何の信条は関係ないだろう。

  

 

 

以前、フィンランドつながりでPekka Pohjolaにも書いてます。よろしければご覧ください。

geeked.hatenablog.com