メビウスの惑星

雑食性消費者の宇宙遭難日記です。プログレ入門者

【音楽レビュー】Kingston Wall - Tri∞Logy(1994)

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フィンランドヘルシンキのサイケ・プログレッシブロックバンド、Kingston Wall。私も知ったのはごくごく最近ですが、検索しても記事数が少なく、あまり知名度の高いバンドではないと思われます。リンクにもあるブラックメタル好きの方に教えていただいて聴いたのが端緒。

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本作はアルバムタイトル通り3枚目のアルバムで、1,2枚目はそれぞれ"Ⅰ","Ⅱ"というタイトルだった。だからこの時点でもうプログレ好きとしてはなんとな〜くコンセプト性みたいなのを感じて当たりアルバムの雰囲気がビンビンしている。

実際に聴いて見ると途切れることなく続く小曲のメドレーが大曲構成のような効果を発揮するし、大曲も後半に聳えているし、コンセプトアルバムっぽいしでプログレ好きな私としてはとにかく最高だった!

 


Kingston Wall - Tri-Logy (Full Album)

 

90年代サウンドがそこまで好きではない自分でもすんなり受け入れられたこのバンドは、ジミ・ヘンドリックスレッド・ツェッペリンそしてピンク・フロイドの影響が色濃く、そこにオルタナティブの成分を混ぜたような音楽を奏でる。そして東洋的な神秘主義のフレーバーも混ざり込み、サイケデリックな音楽性を持ち味にしている。

70年代の音楽が好きであれば美味しく聴けると思うが、むしろ90年代サウンドが好きな人は聴いていて辛いのではないかというような気がしないでもない。

Track List/////////////////////////////////

#1 Another Piece of Cake

#2 Welcome to The Mirror

#3 I'm The King, I'm The Sun

#4 The Key: Will

#5 Take You To Sweet Harmony

#6 Get Rid of Your Fear

#7 When Something Old Dies

#8 Alt-Land-Is

#9 Party Gose On

#10 Stuldt Håjt

#11 For All Mankind

#12 Time

#13 The Real Thing

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Personnel//////////////////////////////////

Petri Walli - Guitar, Vocal

Jukka Jylli - Base

Sami Kuoppamaki - Drums

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おそらくこのPetri Walliという男が全ての元凶(褒め言葉)であり、バンドの中心人物であろう。写真を見るだけでこの怪しさがもう最高である。絶対にクスリ決めてる。東洋思想とかに変に片ハマってしまって変な魔術の研究とかしてそうな顔してる。

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最っ高に怪しい(べた褒め)

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魔術師ポーズしがち


曲紹介

なんと#1~#10まではメドレーである。実質的に4曲しか入っていないと言っても過言ではない。

#1 Another Piece Of Cake ~ #10 Stuldt Håjt

メドレーである。Walliによるヴォーカルとギターがやはり東洋的・サイケデリックな雰囲気を作っている。長尺を3ピースで通していくのだが、ドラムスの仕事量が尋常ではなく、退屈させないよう多彩なパターンを披露している。Walliのギターがピロピロ〜とどこかに行ってしまう時にも、ドラムス(ベース)が下支えをしっかりとしているので曲展開が崩壊しない。逆にドラムスが暴れまわる時には、ギターは支えるようなフレーズを弾いていることが多いため、全体で自由度のバランスを取りつつ、入れ替わり立ち替わり展開するという感じだと思われる。歌詞の内容はざっとみたところ人生哲学から社会問題まで様々である。Ior Bockという神話学者の影響を受けているらしい。

メドレー前半は数分程度の曲とインタールード的小曲のサンドイッチの展開となるが、哲学・神話的メッセージが爆発する"#8 Alt-Land-Is" (アトランティスのもじり)からタイトル通りの歌詞を演説的に刷り込むような"#10 Stuldt Håjt"に至るまでの高揚感が素晴らしい。

#11 For All Mankind

#10とは区切れているものの、曲調そしてフレーズは#1~#10の流れを汲んでいるため、連続曲、あるいはメドレーの〆と見ても良いかもしれない。その中では特にギターのフレーズを強調した曲に感じられる。ほぼフレーズ1つで6分持たしている。ギターフレーズが比較的堅実に支える代わりにドラムスがかなり自由に叩いている印象がある。

#12 Time

イントロのギターが最高すぎる名曲。イントロでもうノックアウト。こういうのエモいっていうんだ。エモいって言って何が悪いんだ畜生。そしてWalliの独特なヴォーカルが曲に完全にマッチしている。歌詞と曲のテーマからみて「今こそ真実に到達する時」だというような曲らしい。彼らは真実を知り、それを人々に伝えるという状況だ。その時彼らの意志は意外にもある種の落ち着き、そして哀愁を帯びた曲として現れてくるのだ。名曲。ちょっと冷静に見直して見ると私自身はやっぱり哀愁漂う曲調が好みなのではないかという気がしてくる。内面の深刻な老化。De-アンチエイジング

 


Kingston Wall - Time

#13 The Real Thing

ズバリ『真実』。18分の大曲でイントロも4分程度あり、しっかりと雰囲気を醸成する。曲の構成は意外にもわかりやすく、必殺のサビが映えるようになっている。これまでの3ピースバンドアンサンブルに加え、サックスを導入しソロで大胆に導入。ちょっと狙い過ぎな感じがしないでもない。が名曲には違いない。


Kingston Wall - The Real Thing (Full song)

おわりに

全くもってクレイジーな素晴らしいアルバムである。彼らのこの後の作品も聴きたいと思ったのだが、この作品を制作後、Vo.のPetri WalliはTooloの教会から飛び降り自殺をしてしまったという。自殺の原因としてはIor Bockの神話理論に対する信頼を喪失し、"Tri-Logy"の哲学を中心としたテーマをもはや後悔していたこと、もしくはガールフレンドとの別れなどが可能性としてあげられている。アルバムで後悔したなら別の作品で挽回すれば良いのだろうと私は思ってしまうが、まあ要因をひとつに絞るのは無理がある。クスリもやってただろうし。誠に残念至極だ。生きているうちにライブを見られればどれだけ幸せだっただろうか。生まれる前の話なので悔やんでもしょうがない。Petri Walliの冥福を祈る。しかし彼にとってこのアルバムのテーマがもはや意味をなさなくなっていたとしても、その音楽は紛れも無い傑作であることに変わりはない。むしろ当時そのテーマに対して抱いたPetri Walliの信頼・興奮・インスピレーションはアルバムの尽きることのないテンションとアイデアに姿を変えた。そこにはもはや何の信条は関係ないだろう。

  

 

 

以前、フィンランドつながりでPekka Pohjolaにも書いてます。よろしければご覧ください。

geeked.hatenablog.com