メビウスの惑星

雑食性消費者の宇宙遭難日記です。プログレ入門者

【音楽レビュー】CAN - The Lost Tapes(2012)

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西ドイツのクラウト・ロック・バンド、CANの未発表音源集で、比較的最近に発表されたもの。30時間にも及ぶテープを再編集して構成した30曲入り3枚組ボックス・セット。Irmin Schmidtによるセルフ・ライナーノーツ付き。アナログ・テープ・リール収納箱を模したと言うジャケットに"Long Play Magnetic Tape 540m 1800ft"と記載あり。

 

 


容に関して…各所で触れらているので、繰り返しの様ですが、とにかく音源および収録曲のクオリティが高い。音質に関してはライブ盤とスタジオ盤の差がほぼないと言ってもあながち間違いではないのでは、というレベル。また楽曲に関してもキャリア全般に渡って未発表の劇伴音楽、インプロヴィゼーション、ライブ音源など多数収録されています。誇張じゃなく未発表曲のレベルを遥かに超える楽曲ばかりです。以下に少し追加で説明しますが、「未発表アルバムが3枚一気にリリースされた」くらいの衝撃を受けました。これには一片の誇張もありません。

 

具体的な曲の中身に関してです…本作に収録されている音源はほぼ以下の3種類に分類出来そうです。

  1. 既存楽曲のベースになっているもの、実験段階のもの
  2. 新規未発表楽曲
  3. ライブ音源

本作の特徴として、かなり重点的にオリジナルアルバム曲のプロトタイプ(1.に相当)が収録されており、CANのファンにとってはオリジナルアルバムの裏側が見えるようになってます。これらのオリジナルアルバムが好きな方は購入して損することはまずないでしょうね。「収録数の多い未発表音源集だから」という理由で敬遠するのはもったいないと断言致します。ひょっとしたらCAN聴いてない人が買っても面白いんじゃ…と言うレベル(かどうかは流石に言い過ぎか…)。

 

 

 

存の楽曲、例えば「Vitamin C」なんかは「Ege Bamyasi」内では3分半くらいの曲として収録されてますけど、この曲の原型は長尺のインプロヴィゼーションから来ており、Vitamin Cはここからブラッシュアップしたものであることが分かります(ref.Disk.2-7)。ここで言いたいこと、それは実際に発売されていたアルバムの楽曲とは氷山の一角であり、素晴らしく磨き上げられた上澄み部分であると言うこと。CANの飽くなき実験精神の上に歴史を塗り替えてきた名作が屹立しているのだという裏付けに他なりません(しかもその実験部分も緊張感溢れる名演がたくさんあるんだから凄いですよね)。

 

また分類の2.については、特にマルコム・ムーニー期の楽曲が、そのキャリアの短さのわりに多数配されているところが嬉しいポイントだと思います。また劇伴に関しては普通に完成作品もあるので、クオリティはお墨付き。

3.については、ライブ音源がオリジナル曲のライブ版が多く、またCANあるあるとしてオリジナルよりも長尺化・フリーセッション化しているものです。2枚目のSpoonのなどが最高。

 

 

 

 

と言うことで、本ブログではライナーノーツを参照に曲の情報を以下にまとめて終わりたいと思います。

 

 

 

Disk.1

1.Millionenspiel (5.48) (1969) (Inst.)

映画「Das Millionenspiel」のための作品。CANがMalcomと出会う以前の、Inner Space時代の作品。Yakiはすでに所属していたため、「CANサウンド」となっています。(レコーディングは1969なので、作曲時にMalcomがいなかったと言う意味か…?前後関係が不明瞭です)

 
2.Waitnig For The Streetcar (10.06) (1968) (Malcom)

Malcomがタイトル・フレーズを連呼しまくる印象的な一曲。元はSchloss Nörvenichでのライブでのインプロより。城のスタジオを貸してくれていたオーナーのゲストのために行っていたライブ・イベントが由来。参加者の中にタクシーを待っていたり、Dorisと言う名前の人がいたり(ref.Disk.1-4)したそうで、Malcomはその人たちを意図的に困らそうとして、短い文節を執拗に繰り返すヴォーカルを演ったと言います。


3.Evening All Day (6.56) (1972) (Inst.)

CAN流アンビエント。楽器だけでなく日用機械が発する音や、椅子などの足がたてる音にも意味を見出し、雰囲気を醸成する。上手く行くと魔法のような音空間が出来上がり、身を包み込むようになるそうです。こんなことを何時間も、あるいは何日もやっていたらしい。実験精神の一曲。


4.Deadly Doris (3.09) (1968) (Malcom)

2.Waiting For The Streetcarの項参照。


5.Graublau (16.45) (1969) (Inst.)

映画「Ein Groβer Graublauer Vogel」(Eng: A Big Grey-Blue Bird)のための曲。音楽とノイズの融合をテーマとした曲。ラジオを小一時間録音して、ループ音源を作成したものを使用している。サンプリングの最初期の事例?個人的にDisk-1の中でベスト曲。


6.When Darkness Comes (3.48) (1969) (Malcom)

映画「Mädchen mit Gewalt」のプロダクションの過程で誕生した曲であり、Malcom脱退直前期の一曲。


7.Blind Mirror Surf (8.38) (1968) (Inst.)

Schloss Nörvenichのスタジオの当初の状態、それは建築廃棄物が散乱した部屋であった。しかし日が暮れると夕日が差し、部屋一杯に幽玄な雰囲気が満ち溢れる。その空間内での、また空間そのものに対する瞑想の音楽であるという。割れたガラス(鏡?)の破片を踏みしめるような音なども使用されている。


8. Oscura Primavera (3.18) (1968) (Inst.)

静謐で美しい一曲。作業のはじめの頃はなぜかよくわからない(すなわちObcuraである)がシンプルに良い曲ができるらしい。


9.Bubble Rap (9.23) (1972) (Damo)

スタジオ・ライブ in Weilerswist。Irminはこの曲を外そうとしたが、EditorのJono Podmoreは入れようとした。この曲がアルバム内の曲の年代順から外れた例外となっている(Malcom Vo.曲に挟まれた唯一のDamo Vo.曲ということ)。なおIrminはこの曲を入れたことは正解だと認めている。Damoのヴォーカルが冴え渡る一曲。蹴られなくて正解すぎる。


Disk.2

1.Your Friendly Neighborhood Whore (3.42) (1969) (Malcom)

この曲のライナー・ノーツでIrminはMalcomの独創性と機知、歓喜と狂気の感覚に非常な影響を受けたと絶賛しているが、その締めには「Thank You Malcolm」(原文ママ)と書いてある。ここで誤字ってはいけないだろう。


2.True Story (4.29) (1968) (Malcom)

Velvet Undergroundの「The Gift」を思わせるMalcomの朗読ソング。Malcom個人としての柔軟で自由な創作がバンドに与えた影響は大きかったことを忍ばせる。


3.The Agreement (0.35) (1971) (Karoli, Schmidt, Malcom)

クレジット3名によるトイレの音です。


4.Midnight Sky (2.42) (1968) (Malcom)

Live in Schloss Nörvenich (ref Disk.2-1)


5.Desert (3.17) (1969) (Malcom)

映画「Mädchen mit Gewalt」のための曲であり、「Soul Desert」(2nd Album Soundtrack 収録)の原曲。曲後半に近づくにつれSoundtrack収録版の不安定なヴォーカルに接近していく過程が聴ける。


6.Spoon - Live (16.46) (1972) (Damo)

白眉中の白眉。他のライブ音源と比べてもDamoのヴォーカルが明瞭でハキハキしており、演奏にも締まった空気感が感じられるのである。前半は原曲通りの進行だが、中盤にかけてKaroliのギター、Irminのキーボード、Yakiのドラムスが絡み合いながらのびのびと翼を広げていく。再びDamoのヴォーカルが登場する頃には、何時となくヴォルテージが高潮しており、テンポもかなり速い。後半部では更にテンポアップしてKaroliとYakiが緊張感溢れるインプロで大暴れします。暴走はするが混沌にはならないよう保たれたキワキワの緊張感必見。Yakiファンの私的には悶絶モノ。17分という長さを全く感じさせない完璧構成のライブ・インプロヴィゼーション


7.Dead Pigeon Suite (11.45) (1972) (Damo)

「Vitamin C」(4th Ege Bamyasi 収録)の原型となったインプロヴィゼーション。この曲自体は映画「Tote Taube auf der Beethovenstrasse」(Dead Pigeon on Beethoventrasse)の曲。Damoのヴォーカル部分は本家「Vitamin C」よりもファンキーだ。


8.Abra Cada Braxas (10.10) (1973) (Damo)

Irmin曰く、CANというバンドは、ライブステージ上で何を演奏すべきかわからないことがしばしばだったらしい。そのような場合にステージの雰囲気などから曲を完全即興で演ってしまったようだ。本曲は即興演奏のクオリティとは毛頭信じられない出来である。Damoの滅茶苦茶なヴォーカルが曲名の由来だろうか。

ちなみにこのような即興演奏をする場合、最終的にめちゃくちゃな演奏になってしまうこともあるが、これは「Godzillas」と呼ばれていたそうである。往々にして相当な長さの演奏になっていたという(ref Disk.3-1)。


9.A Swan Is Born (2.58) (1972) (Damo)

「Sing Swan Song」(4th Ege Bamyasi 収録)の原型。これもDead Pigeon Suiteのように長尺セッションの一部だろう。相当量の実験的セッションを更に磨き上げたものがオリジナルアルバムの音源になっていると痛感させられる。


10.The Loop (2.32) (1974) (Inst.)

曲にしたかったが、忘れ去られてしまった音源。

 

Disk.3

1.Godzilla Fragment (1.56) (1975) (Inst.)

Disk.2-8を参照。


2.On The Way To Mother Sky (4.32) (1970) (Inst.)

「Mother Sky」(2nd Soundtracks 収録)の制作過程に当たるセッション。Mother Skyの持つ緊張感を既に有している。


3.Midnight Men (7.33) (1975) (Inst.)

German TVのEurogangシリーズのための曲。派生して「Hunters and Collectors」(7th Landed 収録)になった。


4.Network Of Foam (12.34) (1975) (Inst.)

Disk.2-8を参照。同じような即興演奏だと思われる。


5.Messer, Scissors, Fork, and Light (8.20) (1971) (Damo)

映画「Das Messer」のための曲。すなわちSpoonのライブ版のような曲。このライブ版ではキーボードがSpoonそのまんまである以外はほぼ別曲。

 

6.Barnacles (7.44) (1977) (Inst.)

Rosko Geeがベースで、Holger Czukayはモース・テレグラフである。ファンキーなRoskoのベースが聴ける。ライブ音源なのかスタジオ音源なのかわからないが、インプロヴィゼーションっぽい。Yakiのファンキーなドラムとの叩き分けがすごい。


7. E.F.S 108 (2.07) (1976) (Inst.)

Ethnological Forgery Series(似非民族音楽シリーズ)


8.Private Nocturnal (6.48) (1975)

スタジオにおけるライブ・インプロ。


9.Alice (1.54) (1974) (Inst.)

映画「Alice In The Cities」の曲。徹夜で作った。


10.Mushroom - Live (8.18) (1972) (Damo)

「Tago Mago」40周年リマスターのボーナストラックとして付属していたライブ音源と同一と思われる(間違ってたらすいません)。原曲よりもWhisper気味でアンニュイ。不気味さを増した好演と思います。


11.One More Saturday Night - Live (6.33) (1973) (Damo)

安定のライブ音源。カッコ良く締める一曲。

 

 

以上です。ここまで読んでいただきありがとうございました。 

 

※追記 in 2020/06/22

CANのアルバム18作品のリイシューとIrmin Schmidtの最新ソロアルバム"Nocturne"が同時発売が発表されました。めでたい🎉

The Lost Tapesも再販されるようですから、ぜひ手に取って見てください!

https://news.yahoo.co.jp/articles/6297233ce6e4cfe4330f0bf76555a0d7fcad60cf