【音楽レビュー】CORIMA - AMATERASU(2016)
CORIMA、Los AngelesはCariforniaのバンドです。Band Campのディスコグラフィに寄れば本作は4年振りの2作目のアルバムとなります。
レーベルはSoleil Zeuhl。フランスのジャズ・ロック、プログレッシブ・ロック、ズールなどを主に取扱うレーベルからの発表です。DÜNも同レーベルから作品を発表しています。
レーベル(Soleil Zeuhl):http://www.soleilzeuhl.com/
このバンドの説明をする前にZeuhlについて説明をしなければなりません。
ズール(Zeuhl)というのはプログレッシブ・ロックから派生した音楽ジャンルのひとつ…というよりはむしろフランスの伝説的バンドMAGMAの音楽を指す用語でした。
MAGMAの創始者であるクリスチャン・ヴァンデは敬愛するジョン・コルトレーンの死をきっかけに天啓を受け、ある音楽を始めることとなります。それはコバイア星から地球を侵略しにやってくるコバイア星人の言語「コバイア語」を用いたロック・オペラのような音楽です。
大人数による演奏と男女混成の呪術的な合唱、ドラム・ベースが奏でる低音による壁のような脅迫性、偏執的なフレーズの反復といった衝撃的な音楽性は、一聴にすれば脳裏に焼き付き、簡単に剥がれることはないと断言出来ます。ヴィジュアル面でのインパクトも極大!
Magma - De Futura (high quality)
この強く印象的な、強烈な音楽に魅せられたバンドがMAGMAのフォロワーとなり、同様の音楽を志向するようになります。かくしてMAGMAの音楽を指す用語であったZeuhlはジャンルを指す言葉としても成立するようになりました。
これでようやく本題のCORIMAの方に移って行くことができます。
CORIMA : Personnel
- Andrea Calderón - violin,vocals
- Paco Casanova - keys, synths, organ, vocals
- Patrick Shiroishi - saxophones, guitar, glockenspiel, vocals
- Ryan Kamiyamazaki - bass
- Sergio Sanchez Ravelo - drums
AMATERASU : Track List
- Tsukutommi Ⅰ
- Tsukutommi Ⅱ
- Tsukutommi Ⅲ
- Amaterasu Ⅰ
- Amaterasu Ⅱ
- Amaterasu Ⅲ
- Amaterasu Ⅳ
- Amaterasu Ⅴ
- Amaterasu Ⅵ
Band Camp:https://corima.bandcamp.com/
CORIMAはアメリカのバンドですが、バンドメンバーの名前を見るに、日系アメリカ人らしき人物がふたりいるようです。そのためか今作は日本の神々をモチーフとしたアルバムになっています。アルバムアートワークは同じくZeuhlバンド「高円寺百景」のそれっぽくもあります。構図とカラーリングのデザインは結構いい線いってると思うんですが、どうでしょうか。
曲はパート分けをするタイプの大曲構成で実質2曲です。
モチーフとなっているのはTsukutomi=月読命(誤字か?)とAmaterasu=天照大御神の二神。神話関連は詳しくありませんが、月読命は天照大御神の弟神に当たるようです。
(月読命の性別に関する記述はないものの、一般的に男神とされることが多いようです)
Corima ► Tsukutomi [HQ Audio] Amaterasu 2016
1曲目"Tsukutomi"はグロッケンシュピールらしきイントロから男女混成コーラスによる静謐で美しい雰囲気からスタートします。コーラスが止みピアノの伴奏のフレーズが加速するところから本番、手数の多いドラムとドライブしまくるベースによる変拍子の応酬!リズム隊以外で主にフィーチャーされているのは、サックス、ヴァイオリン、シンセ。ギターの影は薄めです。音像の構築にもこの3楽器は大きく貢献していて、フェーズを経て追い込まれるようにピッチを高めていく各フレーズが、テクニカルかつタイトなリズム隊と協同して緊張感と高めます。現代の楽器を使用しているにも関わらず、偏執的なリズムに追い込まれて行くうちに神話的な世界観のイメージが醸されてくるように感じるもの不思議です。アートワークのなす業も大いにあるかもしれません。暴れまわるヴァイオリンをフィーチャーしているところはKing Crimsonの「太陽と戦慄」が好きな人にとっては相性が良いように思われます。2曲目のAmaterasuと比較しても、テクニカルなリズム隊、変拍子などによる緊張感、バリバリに構築された楽曲構成が特徴的です。ある意味「男性的」な曲というような印象もある気がします。
2曲目"Amaterasu"ははっきりとしたメロディラインのないピアノからスタートします。相当に実験的で気まぐれにも思われるその構成は「女性的」な印象を受けます。Ⅱではシンセとヴァイオリンをフィーチャーし、不穏な空気を醸成しています。神話上における天照大御神の「天岩戸隠れ」により日本中が闇に包まれ様々な禍が発生したという故事に通ずるような雰囲気を感じます。Ⅲでは1曲目では控えめだったヴォーカルワークを多くフィーチャーしており、「太陽の神様の愛」の反復や「まだかァ!」というような狂気の叫びが曲の切迫感を一層高めていきます。Ⅳで変拍子のフレーズが反復され極極まで高まると一瞬ブレーク。ⅤからはⅥ終盤まで緊張感あふれる展開が途切れることがありません。相変わらず7拍子などを基調とした変拍子を元に楽曲を構築しているが、1曲目よりもリズム隊がやや控えめとなりサックスが縦横無尽に活躍。細い女性コーラスは日本語でもなく、何を言葉にしているのか判然としません。あまりに緊張感のあるフレーズが連続しすぎてだんだん慣れてきてしまうのがやや怖くもあります。もう少し曲の時間を短くすれば緊張感を喚起できたような気がしてしまいます。しかし最後は変拍子に加え演奏速度も早くなり、緊張感はひとしお。「アマテラスは帰らず」(?)と聴こえるコーラスが反復され一気にブレーク。思わず呆然としてしまいます。
演奏技術、楽曲の構築、独特な世界観など完成度の高い作品でなかなか侮れません。次回作にも期待しています。
以前はサブスクリプションもあったのですが、撤退?したようです。手に入れるなら是非Band Campで!