メビウスの惑星

雑食性消費者の宇宙遭難日記です。プログレ入門者

Anekdoten/Until All The Ghosts Are Gone(2015)

スウェーデンのアネクドテン、2015年リリースの最新作。

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前作より8年越しのリリースということも示しているように、クリムゾン系の音像ってオリジナリティとか、曲のバラエティを出すのって案外難しい。そんなバンドの最新作は十分なオリジナリティを獲得し、バンドとしての進化を前面に押し出すものとなっている。

KScope的アトモスフィア+プログレ的大曲の構築美という構図を基本としつつ、キモでメロトロンやヘヴィネスを欠かさない。まさに「ツボをおさえた」というような巧みな曲展開を見せている。

以前よりもテクニカルでスマートさを増した音のためか、以前のアネクドテンらしくない音だとか、あるいは受け付けないという感想もみられる。内面の凶暴さやラウドネスと同居していた粗っぽさもなりを潜め、「よくできた」感触の一枚である。良くも悪くもKScopeの洗礼を受けているといったところでしょうか。

あくまで既往のファンによる感想がこんな感じのところというだけで、バンドディスコグラフィからいえば一皮むけたといってよい作品。大雑把にいって、1st,2ndのクリムゾン系路線と、3rd以降の静謐スペースロックとの折衷、および昇華を果たしてみせている。

筆者としてはアネクドテンの演奏力や曲の構築力はプログレバンドとしては決して高くないという印象を持っていたものの、本作の#1 Shooting Starや#3 If It All Comes Down To Youなどはプログレ的魔法(≒ワクワク感)すら感じる。バンド史上No.1傑作と断言はできないが、ものすごい作品であることは間違いがない。

Hybirs(1992) - Epilog(1994) - Buried Alive(1996) - Viljans Öga(2012)/Änglagård

エングラガーことスウェーデンの伝説、Änglagård アングラガルドです。

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Anekdotenとともに90年代のプログレ、シンフォ熱を再燃させた元凶といわれ、暗すぎるジャケット、読めないスウェーデン語、少なすぎるバイオグラフィー、店舗で見かけなさすぎる音源等々の影響で伝説的な扱いを受けている…と思われるが、近年再結成し、2012年作3rdアルバム、Viljans Öga(2012)をリリースしていてとっても熱い。Bandcampのアカウントも設置されていて、私はここ経由で2ndと3rdのデジパックを入手した。また、SpotifyではライブアルバムのBuried Alive(1996)が聴ける、というかSpotifyじゃあこれしか聴けない。なんで?

大曲+間奏的小曲の志向、メロトロンの採用、多彩な変拍子フレーズと転調、クラシックに接近したシンフォサウンドなど、典型的プログレの特徴を満載した重戦車。特にメロトロンを採用した叙情性のサウンドは(中期)キング・クリムゾン系と見做されることが多い。のだが、実はそうでもないと今は思っている。

ベースリフによる前進と、手数も多く変拍子を多彩に盛り込んだ強力なリズム隊、時々フリップの影響を覗かせるギターフレージングなどは確かにクリムゾンの影響を感じさせる。だが、テクニカルな変拍子+よく練られたメロディの基本公式を、絶えず変化させながら、しかも中だるみすることなく、全曲通しで構築してみせていることが最大の美点である。バンドアンサンブルにはプログレ黎明期のような黄金の輝きに満ちた魔法がかけられている(自分の経験から言えば、YesのFragileのようなワクワク感であり、時とともに失われてしまったものである)。これすなわち、構成美タイプのバンドということであり、インプロ的なクリムゾンとは根本的に異なる点だと考える。むしろ宮殿クリムゾンやある意味Yesに近い。シンフォニックサウンド≒クラシック的完全な構成の美を追求したのだろうか、などと考えたりもした。

クリムゾン的というとパラノイア的なイメージを強くしがちだが、実際のバンドは客を楽しませることにかなり軸足を置いたエンターテイナー的な性質を持っているのも特徴だと考えられる。

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BandcampでCDを買うと一緒に風船がついてくるが、使えるワケなくないか?

AnekdotenはÄnglagårdに比べれば遥かにシンプルなリズム(それでも変拍子)、オルタナ、メタルといった70年代になかった要素をプログレに融合して、次世代への方針を示すことに成功した。一方、Änglagårdは90年代という時代において、純粋に70年代黄金期プログレサウンド、クオリティで作品を作り上げることが出来たことが、ほぼ奇跡的なことであり、皆が忘れかけていたプログレの美徳を思い起こさせたのだろう。

Hybris(1992) 邦題:傲慢

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CDが売ってないのでまだ聴いてません。聴いてから書く。

一応、Bandcampはデジタル音源のみあり(他はデジパック売ってるのになんでないの????)、Youtubeもあるけど、アングラガルドはこれで聴いたら負けっていう謎の意地がある。近年発売されたボックスセットは高いしそもそもほぼ売ってない。ぼったくり価格じゃないCDがあったら誰か教えてほしい、切実です。

Epilog(1994)

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うっすら人の顔が見えるコワイジャケット。LPサイズでみたら最初に人の顔に気付かなくて、めっちゃびっくりしそう。Hybrisは聴いていないけれど、多分本作も甲乙つけ難いくらいに完成度の高い作品。Bandcamp経由で購入したが、リマスター版の2CD音源であり、#3の本来の姿が収録されたCDが付属していた。

Items

  1. Prolog(2:01)
  2. Höstsejd(15:32)
  3. Rösten(0:14)
  4. Skogsranden(10:49)
  5. Sista Somrar(13:11)
  6. Saknadens Fullhet(2:01)

Buried Alive(1994) 邦題:ライブ1994 早すぎた埋葬

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本作はライブアルバムで、94年のロサンゼルスで開催されたプログレッシブ・ロック・フェスティバルの演奏を収録している。フルートとキーボードの音がこもっているが、個人的な旨味成分ことリズム隊の音圧は十分あるのでまあOK。よく言われているが、演奏はとにかく上手いということがわかる。

Items

  1. Prolog (2nd)
  2. Jordrök (1st)
  3. Ifrån klarhet till klarhet (1st)
  4. Vandringar i Vilsenhet (1st)
  5. Sista Somara (2nd)
  6. Kung Bore (1st)

衝撃的な事実ですが、旧日本版の解説によれば、「当初の企画通りだとすれば、プロッグフェスト'94の前日のステージのコンプリートになっているはず」であると書いている。当日のセットリストも併記されていて、以下のようになっている。

  1. Prolog (2nd)
  2. Jordrök (1st)
  3. Höstsejd (2nd)
  4. Ifrån klarhet till klarhet (1st)
  5. Vandringar i Vilsenhet (1st)
  6. Skogsranden (2nd)
  7. Sista Somara (2nd)
  8. Saknadens Tullhet (2nd)
  9. Kung Bore (1st)

赤字が音源化時に省略されている箇所だが、これ当時の持ち曲ほぼ全曲じゃん!っていう。当時のライブに参加したかったという気持ちと、いつか完全版を2CDでリリースして欲しいという気持ちですね。どうせ録音してあるんだろう???

Viljans Öga(2012)

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ほぼ20年越しの堂々たる復活作。20年もかかってジャケのうっすら顔がめちゃくちゃはっきりするように。前作から作風をそのまま延長してきてて、待ち焦がれていた、というよりは突然の復活に不意を衝かれていたファンを喜ばせている。以前に比べて#2などギターをフィーチャーした曲を始め、ギターの出番が増加している印象。反面叙情性は若干薄れて感じられるような気もする。前2作が化物だけな気もする。ギターはフリップ的なフレーズも多く、ハードロックのような印象を与えるような箇所もある。ただ、#4の終盤の展開とアウトロのあっけ無さはイマイチ納得できない。。。 

Items

  1. Ur Vilande(15:47)
  2. Sorgmantel(12:06)
  3. Snårdom(16:15)
  4. Langtans Klocka(13:22)

 

 

 

mouth / Vortex(2017)

オルガン系プログレ・ハードロックバンドmouth

現代のドイツのバンドです。

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mouthprog.bandcamp.com

 

#1の"vortex"が本作の白眉だと思うが、ユーライア・ヒープの6月の朝をピッチ変えてダウナーにしたみたいなリフをしている。後作のfloatingというアルバムでは"homagatago"という曲でCan的なハンマービートをやってたり、割と元ネタであることをあからさまにする傾向がここで出ている。

元ネタが丸出しなところは多分オマージュ的なセンスでやっていて、聴いている人をニヤッとさせたいんだろう。今作については「俺たちはユーライア・ヒープが好きだからこの感じでやるんだぜ!」という宣言ととってよい。まあそう言っても全体としてはヴィンテージ趣味を出した70年代プログレ風の好盤です。全体的にメロディセンスが良いのだと思うけど、耳に残りやすいフレーズが多く、とても聴きやすいのがすばらしい。

#2は同郷のクラウトロックからの影響が強いノイズ・SE的なキーボードワークを見せつつも,#3"parade"ではオルガンと歌メロの組み合わせ、ユーライア・ヒープへの愛を叫んでいる。3曲目は歌メロが結構好きで耳に残る。

#4"moutain"はZeppの3rdのFriendsみたいな不協和音系アコギとコーラスが気持ち良い。ヴォーカルは靄がかっていて、#3が明るめのハードロックだったあとではちょっと落差は否めない。曲自体はこれも好き。

#5"into the lignt"ドライブするベースとオルガンの掛け合いがスリリング。ギターは時々アクセントのようにオブリガート、ヴォーカルは時々ファルセット。ヘッドホンのせいかもしれないが、ドラムの音に比べてベースの音がだいぶデカい気がする。

小曲#6、不穏なリフレインが耳に残る。メロトロン?をフィーチャーした間奏部分をはさみ、最終的に始めのリフに戻る、#7への完璧なお膳立て

#7"epilogue"リリシズムに溢れた呟き気味の歌唱と、神聖なオルガンのコンビによる大円団。終わりか。。?と思うとボーナストラック的な、もしくはストロベリーフィールズフォーエバー的なノリで曲が戻ってくる。ここでクラウトロック魂が炸裂してしまい、延々と終わらないリフレインが繰り返される。

ほんの少しずつ盛り上がりを見せ、トランス状態に導入するようなリフレインではあるが、ここに関しては#6の流れを踏襲して、たるまずに締めた方がよかったのではないか?と唯一思ってしまう箇所だった。

シタール?をフィーチャーし、最初のリフレインをインド方面から帰還させる。このパートも彼らのメロディセンスでうまくまとめられている分、中間部の中だるみが勿体無く感じられてしまう。超惜しいと思います。

あとバンド名が普遍的すぎて、検索社会の現代ではディスアドバンテージ背負っているのももったいないと思う。もっと人気出てもいいんでは

King Crimson/Live in Newcastle December 8, 1972(2019)

King Crimson Collectors Club 48番目 "太陽と戦慄" ライブ版

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「太陽と戦慄」のライブ盤なのだが、スタジオ盤と同様にジェイミー・ミューア Jamie Muirがいる編成でのライブ音源で、珍しい。

さらに、サウンドボード音源(ライン入力での録音)のため、音質が良い。音圧もあり迫力ある音源なのが嬉しい。他のライブ盤と比べても音質の評判は良く、同時期のライブ音源と比較しても高音質と言って良い感じ。スタジオ盤の音質とは当然比べられないけれど。。。5人編成で音質が良いものは珍しくて、もうないと思っていたものがつい最近に大発見されたっていう嬉しさがこのアルバムのポイント。

曲順も「太陽と戦慄」のまんまで、途中にアナウンスメント、インプロ1,2を挿入。

Improv IはBook of Saturdayから切れ目なく連続して、その雰囲気を引きずっている。序盤1/3はフリップ翁のギターが珍しく(?)も優しくメロウな雰囲気で、そのあとはリズム隊の激しいやり合いも続くから、プログレ版Book of Satardayっていうような感じ?よい。

アウトロにかけて物寂しくなって言ってExilesにそのまま繋がっていく。このExilesはウェットンの歌唱の調子が良くて、高音部も伸びやかでスキャットも抜群。

Easy Moneyもウェットンの歌唱は絶好調で、一方ミューアのパーカッションが聴きどころかなと思う。フリップのギターはちょっと珍しいフレーズも多いかも?どこまで決めてて、どこからアドリブかわからないというところの創造性と緊張感、ライブ盤の醍醐味。新しいアイディアが溢れてきていた時期特有の、みなぎった演奏っていうのが素晴らしい。

Improv IIはEasy Moneyの流れから連続。タイコとパーカスが始めの主役で、ミューアのソロがしばらく続く。奇声も発しつつ、手数の多さと多彩な楽器?の音色がかなり刺激的。

その後Talking Drumから太陽と戦慄part2に流れていくが、こちらはアルバム版よりもブレークからの曲のつながりが滑らかな感じ。スタジオ盤の圧倒的なインパクトとは比べられないがこれも良い。唯一の残念ポイントとして、パート2が途中で終わってしまう。音質が良いだけに残念でならない。

ARACHNÖID/ARACHNÖID(1979)

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Arachnöid、フランスの70年代に活動したグループで一般的にはキング・クリムゾン系のサウンドとして有名。邦題は「アラクノイの憂欝」。70年代プログレにしては遅咲きの1979年発表の本作が唯一作だ。歌唱は#3を除きフランス語である。

唯一作系のバンドにしては結成時期がかなり早く69年に、Ba.&Vo.のPatrick Woindrichを中心として結成されている。70年代前半はメンバーチェンジを繰り返しつつライブ活動を行っていた。ライブはスクリーンスライドなどを使用したものでアンダーグラウンドシーンで評判は上々だったようだ。メンバーが定着したのが75年あたりであった。アルバムの発表が望まれていたものの、マネジメントの不在により時期を逃してしまい、プログレ落目の1979年にセルフプロデュースにより本作が発表されている。恵まれた環境で作成されたとはお世辞にも言い難いところだっただろう。

単刀直入に言って捨て曲のない名盤なのだが、#1"Le Chamadiére"を一聴して魅入られるなら、全曲満足出来る。特にクリムゾンファンであれば、ほぼ間違いなく気にいるだろうと思うのでとりあえず再生してみましょう。


Le chamadière

サウンド面に関しては、ギターがロバート・フリップの影響をモロに受けた不安定フレーズを使用しているのであるが、機械的なフレージングはせず、むしろバッキングに徹する場面が多い。フリップがバッキングをする際、しばしばベースやバイオリンがメインメロディを担当しているが、アラクノイではキーボードが担当する場面が多いという対応関係で考えるとイメージしやすいと思う。リズム隊は音圧低めで繊細、そしてフルートやピアノの旋律には鬱屈さと品性が同時に感じられ、フランス特有の耽美な味わいとパラノイア世界観を表出させている。

キーボードとメロトロンの湿気が飽和気味になりそうだが、ギタードラムは割と乾燥した音でバランスを取っている。また当のキーボードの音を実際に聴くと、自己陶酔するような、どこかに客観的視点のあるような叙情性というよりも、主観的な苦悩を押し出す生々しさが感じられる。曲展開の引き出しも多く、また楽器同士のフレーズの絡み合い方も飽きさせないセンスがあるのだが、転調において急激で脅迫的なストップ&ゴーがあり、精神的不安定の演出が上手いと思う。

ここまでひょろめのフレンチシンフォっぽい書き方をしてきたが、アルバム一枚通して楽曲を見てみると、前半(A面?)の#1~#3まではシンフォ感の特に強い楽曲でアラクノイとしてのオリジナリティを前面に示したかったのではないかと思われる。反面#4~#5はキング・クリムゾンジェネシスの影響が比較的わかりやすく出ている。リズム隊、特にドラムスの音圧が上がっておりクリムゾンっぽいアンサンブルになっているし、反復フレーズによる"Starless"的な焦らし、リズムへの絡ませ方は違うものの"Fracture"っぽいアルペジオ、人々の雑踏をバックに台詞回しの様なヴォーカルワークはジェネシスのシアトリカル感と「太陽と旋律パート1」のアウトロっぽさを感じさせる。

先ほども言った様に曲展開の練り方が非常に上手いバンドなので、要素が似ていても最終的な曲としてのクオリティは非常に高いです。初めて知ったという人には激烈にオススメしたいです。とりあえず聴いて見てください。

 

 

 

 

 

【音楽レビュー】Sunn O))) - Pyroclasts(2019)

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Go buck to the "ELEMENT"

Sunn O)))、アメリカ合衆国ドゥーム・メタル、もしくはノイズ・アンビエント集団。9枚目に当たるスタジオアルバム。前作"Life Metal"から半年という短期間で発売されている。

とにかく爆音の持続音を11分鳴らし続ける曲が4曲収録されている。旋律という観点を捨て、単音の積み重ね、重ね合わせによって音壁を建立させる。プリミティブだという感想が頭をよぎるが、これは原初の音楽のようだという意味ではない。音が脳内に結びあげる像は雄大大自然へと直結している。すなわち生命が生まれるよりも遙か前から存在している自然界の構成要素そのものを表現している音楽だと思うのである。スタジオ内にうず高く積まれているであろうアンプから出力された轟音が、空間を伝い対岸にあるもう一本のギターの弦と共振して連鎖していく。空気を媒介とした音波と言うメディアが、より物質的な意味で強固に相互の存在を結び付け、関係付けさせている、その説得力。それは大地、岩盤、地震、溶岩、また噴火といったイメージに自然と合致してくる。大自然のエネルギー、力強さである。このようなイメージとSunn O)))日課となっていたセッションの工程を重ね合わせれば、そこから産まれた本作が"火砕砕屑岩"と言う名を享けていることにも自然と納得がいくようだ。

プリミティブなエレメントを表現するが故に、ある種の無国籍感を内包しているのも面白い。雄大なものや、歴史あるものとの親和性を感じるが、個人的には日本の宗教、神社仏閣をなぜか連想してしまった。瞑想音楽のようだなと言う感想から飛んで出たものかもしれない。是非日本の寺社仏閣でライブして欲しい。

個人的なフェイバリットをあげるとすれば#1 Frost(C)だろうか。荘厳さ、気高さ、美しさなどが洪水のように押し寄せてきて昇天する。ちなみに全ての曲に(C)とか(G)とかアルファベットが付されているのだが、もしかしてこれはコードでしょうか。私はCコードが好きだという話をしていたということなのですか。

  

Sunn O)))も長いキャリアを通じてその音楽性も変化を遂げてきた。5thアルバム"Black One"の頃はブラックメタルとのクロスオーヴァーを通じ精神的にも物理的にも危険極まりない、殺人的な音楽で数多のリスナーを驚天動地させた。しかし時の流れによってグレッグ・アンダーソンは父になり、今作は圧倒的なリラクゼーション効果をもたらす音楽へと変貌したのだ。これは多幸感、いや一種のエクスタシーといっても良いシロモノなのだが、最早これは健康に効くということに筆者は気付きました。そこで、、

Sunn O)))健康法のススメ

個人的なSunn O)))健康法のススメだが、スーパー銭湯→サウナ→仮眠室→Sunn O)))です。半睡状態で仮眠室に寝そべっているときに完全にキマります。ストレスが溶けるようだ…。Sunn O)))にここまで生命エネルギーを貰うとは思いませんでしたね。是非お試しあれ。

 

【音楽レビュー】CAN - Delay 1968 (197)

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回に引き続きCANのアルバム"Delay 1968"です。前回レビューの"The Lost Tapes"同様、このアルバムもアウトテイク集です。時期的には1stアルバム"Monster Movie"の時期のものですが、クオリティが全く未収録集に相応しくない傑作。まさに「遅れてやってきたオリジナルアルバム」という表現がしっくりくる、名が体を裏切らぬ一枚です。アウトテイクなので、荒削りな曲もありますが、のちのパンクやニュー・ウェーブを既に予感させています。時代の先を行く痛快さよ…。

Monster Movieと対比させてみると、曲のバリエーションはこちらの方が富んでいます。この時期には既に実験的なことを色々と試してみていたのだということがわかる意味でも面白い一枚です。あと時期が早いからかCzukayが元気な曲が多いのがちょっと面白珍しいところかもしれない。ファンキーな曲に合わせたブリブリのベースなどもあり。

#6,#7などはセッションアウトテイクのようですが、曲の終わり方が唐突であり、このアルバム唯一の残念ポイントと言えるかも。"The Lost Tapes"のように長尺で収録してくれていたら個人的にはもっと嬉しかった。ただ削った分、再生時間が短めなので、気軽に聴きやすいと言う意味では良くも作用しているかもしれない。You Doo Rightとか重すぎるときもありますからね。

 

 Songs

1.Butterfly

 不協和音的なKey.にMalcomのVo.の雰囲気がベストマッチ。初動でノックアウトされちゃう名曲。演奏を通じてMalcomのVo.が冴え渡っており、執拗な反復を含みつつも、フリーキーに羽ばたきまわり、創造性を発露させ、撒き散らしている。

2.Pnoom

 間奏的小曲。

3.Nineteen Century Man

 ファンク風味のギター。そこに乗っかっているIrminのバッキングKey.がめちゃくちゃ胡散臭い。勿論これは褒め言葉ですよ。グルーヴィーなCzukayのBa.も良い。Yakiは結構大人しめです。

4.Thief

 Michealのもの悲しいギター、Irminもギターに合わせて雰囲気を演出している。そして枯れかかってるMalcomのブリージーなヴォーカル。裏で意外とゴリゴリいってるリズム隊の方々。Monster Movieでいうとこの"Mary, Mary, So Contorary"的立ち位置。

5.Man Named Joe

 ちょっとR&B的な雰囲気(的外れかも)。CANの他の曲にはあまりない雰囲気のよう。Czukayが元気にうねる。Yakiがフィルインで普通に連打していて珍しい気がする。

6.Uphill

 リズム隊とVo.だけで進むようなスタート。Key.は不在で、ギターはバッキング的な演奏。かなりアップテンポだ。Vo.がフェードアウトしてギターも存在感を増していく。ギターとヴォーカルが並列で突き進む。ギターがうねり、ヴォーカルが反復するなど、前後関係、主役脇役の関係性が変化していくのが面白い。ヴォーカルはフェードアウトしてはリスタートを繰り返す。Baもテンション上がって前に出てくる。セッション的な演奏が続くかと思いきや、突如テープが終わったかのような呆気ないエンド。即興演奏だと思いますが、最も緊張感溢れる一曲。

7.Little Star of Bethlehem

 ミドルテンポの演奏にMalcomのポエトリーリーディング的なヴォーカルが乗る。ギターも変化を加えながらコンスタントに進行する。Velvet Underground好きな人が気に入りそうな曲。距離感のあるサウンドエフェクトが、見たこともないBethlehemの幻像を虚空に映し出していく。ドラムスが盛り上がってきたところでフェードアウトしてしまう。うおーもうちょっと聴きたい!となるくらいが良いのかも…。