メビウスの惑星

雑食性消費者の宇宙遭難日記です。プログレ入門者

ARACHNÖID/ARACHNÖID(1979)

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Arachnöid、フランスの70年代に活動したグループで一般的にはキング・クリムゾン系のサウンドとして有名。邦題は「アラクノイの憂欝」。70年代プログレにしては遅咲きの1979年発表の本作が唯一作だ。歌唱は#3を除きフランス語である。

唯一作系のバンドにしては結成時期がかなり早く69年に、Ba.&Vo.のPatrick Woindrichを中心として結成されている。70年代前半はメンバーチェンジを繰り返しつつライブ活動を行っていた。ライブはスクリーンスライドなどを使用したものでアンダーグラウンドシーンで評判は上々だったようだ。メンバーが定着したのが75年あたりであった。アルバムの発表が望まれていたものの、マネジメントの不在により時期を逃してしまい、プログレ落目の1979年にセルフプロデュースにより本作が発表されている。恵まれた環境で作成されたとはお世辞にも言い難いところだっただろう。

単刀直入に言って捨て曲のない名盤なのだが、#1"Le Chamadiére"を一聴して魅入られるなら、全曲満足出来る。特にクリムゾンファンであれば、ほぼ間違いなく気にいるだろうと思うのでとりあえず再生してみましょう。


Le chamadière

サウンド面に関しては、ギターがロバート・フリップの影響をモロに受けた不安定フレーズを使用しているのであるが、機械的なフレージングはせず、むしろバッキングに徹する場面が多い。フリップがバッキングをする際、しばしばベースやバイオリンがメインメロディを担当しているが、アラクノイではキーボードが担当する場面が多いという対応関係で考えるとイメージしやすいと思う。リズム隊は音圧低めで繊細、そしてフルートやピアノの旋律には鬱屈さと品性が同時に感じられ、フランス特有の耽美な味わいとパラノイア世界観を表出させている。

キーボードとメロトロンの湿気が飽和気味になりそうだが、ギタードラムは割と乾燥した音でバランスを取っている。また当のキーボードの音を実際に聴くと、自己陶酔するような、どこかに客観的視点のあるような叙情性というよりも、主観的な苦悩を押し出す生々しさが感じられる。曲展開の引き出しも多く、また楽器同士のフレーズの絡み合い方も飽きさせないセンスがあるのだが、転調において急激で脅迫的なストップ&ゴーがあり、精神的不安定の演出が上手いと思う。

ここまでひょろめのフレンチシンフォっぽい書き方をしてきたが、アルバム一枚通して楽曲を見てみると、前半(A面?)の#1~#3まではシンフォ感の特に強い楽曲でアラクノイとしてのオリジナリティを前面に示したかったのではないかと思われる。反面#4~#5はキング・クリムゾンジェネシスの影響が比較的わかりやすく出ている。リズム隊、特にドラムスの音圧が上がっておりクリムゾンっぽいアンサンブルになっているし、反復フレーズによる"Starless"的な焦らし、リズムへの絡ませ方は違うものの"Fracture"っぽいアルペジオ、人々の雑踏をバックに台詞回しの様なヴォーカルワークはジェネシスのシアトリカル感と「太陽と旋律パート1」のアウトロっぽさを感じさせる。

先ほども言った様に曲展開の練り方が非常に上手いバンドなので、要素が似ていても最終的な曲としてのクオリティは非常に高いです。初めて知ったという人には激烈にオススメしたいです。とりあえず聴いて見てください。