メビウスの惑星

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【書評】一揆の原理 呉座勇一 著 (ちくま学芸文庫)

 本日取り上げるのは呉座勇一 著「一揆の原理」(ちくま学芸文庫)でございます。後年に出版された加筆版です。
 

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 タイトルからも分かる通り、この本は歴史系の書籍です。
大河ドラマは好きで見てるんですが、オンタイムで見ながらTwitterやるとめっちゃ捗るんで歴史系のクラスタの人をちょこちょこフォローするようになって、それから歴史系の情報が流れてくるようになりました。
 
 そこでよく著者の呉座勇一さんの話題が流れてくるのだけど、そこで聞きかじったところによると未だ39歳という歴史学者にしては若いであろう年齢にも関わらず、47万部のベストセラーを飛ばして大活躍中のお方らしい。ちらっと検索して覗いてみたら他の歴史研究者の突っかかりをズバズバ捌いておられた。新進気鋭そのもの!!こりゃすげえ、ヒエ〜
http://agora-web.jp/archives/author/gozayuichi(アゴラ-言論プラットフォーム) 
 
 私としてはミーハーな興味を持って呉座先生の本を読んでみたい!むしろ読まねば!と思ったので、デビュー作に当たる本書を選んだっていう経緯です。ちなみにベストセラーの方の「応仁の乱」も読みました(ちょっと難しかった)。なので呉座先生の本は2冊目です。
 
 
 本書のテーマとしてただ一揆を昔の出来事として捉えるというのではなく、東日本大震災原発問題,アラブの春,ひまわり学生運動,雨傘運動,SNSなど現代の出来事とも照らし合わせ一揆の原理」を現代に活用していこうと言う点が挙げられます。歴史上の話題に終始するわけではないため、興味深く読むことができました(まあこれらの10年代イベントももはや昔の出来事になりつつありますが)。
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 内容のもっとも核になる部分は、一揆マルクス主義的な反権力のデモという風に見るのでもなく(百姓一揆)、また中世の非合理性、すなわち宗教的な信仰心を過信しすぎるでもなく(一味神水)、一揆の本質は人と人の繋がり、助け合いであり契約さえすれば2人の繋がりも「一揆」になるということなのです。一揆」は「契約」なんです。実際中世には神仏的な信仰が大きな意味を持っていた一方で高度な契約社会でもあったという事実は自分の中のイメージをガラッと変えました。
 
 細かい引用文書の内容とかいちいち引っ張ってこれないのですが、実際に読んでみると、様々な一揆の事例など紹介されていて確かな説得力を持って伝わってくるはずです。しかも歴史の知識がなくてもわかるように引用されています。わかりやすい!
 
 
 歴史系のテーマってどうしても一般の読者の興味を引きにくいだろうから難しそうだなあ、って読んでて感じました。
でもこの書籍は読んでてとても面白く引き込まれるような魅力があると思います。
それはやはり「歴史研究を現代に活かすような親しみのある捉え方をすることに意義がある」という呉座先生のスタンスへの共感と言う部分があります。自分も(理系の)研究しているから分かりますが、研究の意義って意外と多様で、成果が直接社会の役に立つ研究もあれば、学問的に必要な研究というものもあります。それぞれの意義は異なりますが、それをはっきりさせておくことは非常に大切です。最近話題のブラックホール撮影だって、それ単体では「何の意味が?」って感じますが、宇宙の出来方が分かってくると、それが最終的には地球を含め自分たちの成り立ちにも繋がってくるという意味で非常に重要な意義があるわけです。研究の土台となる部分がしっかりしていればそれだけ研究も説得力を持って伝わってきます。
 
 自分は歴史クラスタとは言えない一般人ですが、本書の内容はこれからの生活にも活かしていくことのできる豊かなものだったと思います。
また個人的には分析厨みたいなところがあるので、面白く感じる理由を分析して個人的に活用していきたい笑。
 
  •  そもそも「一揆」に対する偏見が存在
 読者が持つ一揆に対するイメージが「デモ」「暴動」「反権力の民衆運動」といったように偏ってしまっていることをしっかりと踏まえ、読者の理解度に立脚して話を組み立てている。またその理解度を利用し、「人と人の繋がり」という意味での一揆とのコントラストを大きく取っている。読者は自身のイメージと実態との相違という「裏切り」を体験する。
 
  • 一揆」と現代の「SNS」の関係性
 過去のものであり、身体の外にあった「一揆」という存在が、その実態を明らかにすると、SNSという対応項によって現代および自分自身と関係付けられる。その意外性。また読んできた内容を今後に役立てていくことができるという有益性は読者の意識をステージにひきずりあげる。読者が普段歴史に触れていなくても興味を持てる内容であり、また逆に歴史に対する興味を喚起出来るテーマでもある。
 
  • 呉座先生の圧倒的明快さでなされる痛快な表現
 私が普段抱いている漠然とした疑問や意見を明確な表現で述べてくれる。
「それなのに震災が起きた途端に『やっぱり家族で助け合うのが一番だよね~』などと言い出すのは、ずいぶんと勝手な話だと思う。かつての絆を取り戻し『古き良き昭和』に回帰するというだけでは、問題の解決にはならないのだ。」とかです。気持ちえ〜(平成生まれ)。
 
  • 既往研究や既成概念に対する論理的な批判
 歴史には詳しくないけど主張には説得力があるように感じるし、人が論破されているのを見るのはちょっと爽快なのであった。ただ本書内でも説明されていたけど、昔の研究が現在よりも質が良くないものであるとしてもそれは当たり前のことなのだ。だから当時にその人が何を考えていたのかを考えることの方が大切なのだと思う。当たり前のようであって見逃しがち、もしくは軽視しがちな視点のように思われた。
 
 
 最後の一点は、歴史から学んでどう活かしていくかっていう視点において、特に感銘を受けました。歴史には既にある事実の他に、時代ごとになされて来た解釈がある。その点において、歴史学はいま現在も生きていて変化するものを扱っているとも言えるのではないでしょうか。
(身の上話ですが、特に趣味の音楽とか懐古的な嗜好を持っているところがあるので、これは少し反省する必要がありそうだと思って来ました。当時と現在じゃ全く状況が違うから評価のされ方も違うよなっていう意識は欠けていたような気がします。反省)
 
 歴史の知識がなくても、面白く読め、現代的な意義にも溢れる一冊でした。
 
一揆の原理 (ちくま学芸文庫 コ 44-1)

一揆の原理 (ちくま学芸文庫 コ 44-1)