メビウスの惑星

雑食性消費者の宇宙遭難日記です。プログレ入門者

【音楽レビュー】Arabs In Aspic - Syndenes Magi(2017)

(公式サイト:http://www.arabsinaspic.org/ )
バンド名からしてもうクリムゾンのフォロワー間違いなしって感じ。案の定サウンドは中期クリムゾンを中心とした70年代系サウンドで構築されている。プログレッシブ・メタルに分類されることもあるが、これは中期クリムゾン的なメタル要素であり、あくまで時代回帰的な姿勢だ。ヘヴィ・プログレッシブ・ロックというのが最適かもしれない。
公式サイトによればこのアルバムはLPしか刷ってない模様。なんという懐古厨感…時代に逆行している(しかしSpotifyにはしっかりとある)。
普通にCD刷ってます。ウェブサイト見たときにショッピングリストになかったので早合点致しました。(追記2020/6/18)
ところがどっこい私の趣味は70年代サウンドなのだ!懐古厨なんのその、むしろウェルカム!バンザーイ\(^o^)/
キング・クリムゾンプログレが好きな人やキーボードの音が好みだという人は美味しく頂けそう。
  
Track List////////////////////////////////////
#1 Syndenes Magi
#2 Mørket2
#3 Mørket3
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曲紹介

#1 Syndenes Magi
スウェーデン語で「罪の魔法」というタイトル。"Sin of Magic"ってことですね。カッコエエ。そしてテーマがもう暗い、最高❗出だしからメロトロン。そしてロバート・フリップの影響下らしきギターが。そしてパーカッション登場。これ「太陽戦慄☀️🌙」意識でしょ!と期待高まる。メロトロンがにじり寄ってきて、眼前一杯に拡がって緊張感を煽りに煽ると、ギターワーク全てを切り裂きブレイク!圧倒的な衝撃はまさに「太陽戦慄☀️🌙」。良いオマージュといえそう。そして"Easy Money"的コーラスワークが不穏な雰囲気を演出する。あくまでミドルテンポで進んでいくが、その破壊力は維持されたままだ。速度に頼らず暴力的なアンサンブルをしっかりと構築している。時々入るギターソロはロバート・フリップだけでなくデヴィッド・ギルモアの影響も見られる。ノルウェー語の巻き舌感あるヴォーカルワークが独特のドロっとした感じを醸している。歌詞がわからないのが残念だ。支える様なキーボードワークは感情を昂らせる。
ヴォーカルパートが終了すれば、キーボードの唸り上げとともに長い演奏パートに突入する。あくまで先の見えない闇の中を重く暗くゆっくりと歩んでゆく。ファズギターが登場し、場が一層張り詰めていく。少しずつ演奏がアップテンポになっていき、ギターとキーボードがキメのフレーズを奏でて絶頂に到達。低音とパーカッションが地を這うように短い旋律を繰り返す。ギターも付随する。メロトロンが膨らんでいき、はっと息をのんだかと思うと、一瞬の静寂。アコギとともにヴォーカルパートが再度登場し、ひっそりと歌い上げフィナーレ。名曲。
 
#2 Mørket 2
Mørketは「」を意味するノルウェー語。1はどこ行ったかというと2ndアルバム”Strange Mind Of Frame”に収録されている。そういう「太陽と戦慄」みたいなパート分け好きなんだな。
静謐で美しいキーボードはどこか不穏さを残す。静かに旋律を奏でるが、最後の1音が引き延ばされ、激情をほとばしらせる。ギターが登場し、キーボードと共にヘヴィなリフを刻む。やはりミドルテンポ、しかしその緊張感は只者ではない。ヴォーカルパートはキーボードをバックにした静のパートから、続く動・破壊のパートへと対比的に進行する。ヘヴィさが一層よく伝わる。あくまで低音のヘヴィさを確保しつつも、ギター、キーボードは唸りあがる。コーラスワークもあわさり、得体の知れぬ暗黒の輪郭を写し出している。ノルウェーの暗い森を歩いているようなイメージが浮かぶ。景色が変化していく様に演奏が展開していく。地の底に還り行くようなメインテーマの低音が心地よい。そのままアウトロに向けて、曲はカオティックに崩壊していく。音はドロドロの液体のようになり、得体の知れぬ生物の鼓動のようなベースがおぞましく余韻を残す。名曲。
 
#3 Mørket 3
闇 part3。今度は静謐なギターのアルペジオからリスタート。この時点で雰囲気がもう最高に良い。静かにフルート?がフィルインし、哀愁を帯びる。"Epitaph"や"宮殿”的な雰囲気を醸す。先ほどとはうってかわって酔人の様なヴォーカルが呟くように心情を吐露する。美しいコーラスがバックに現れる。「美しい」とは「鬱苦しい」なのだと言わんばかりの雰囲気…。先曲のように戻ったヴォーカルワークの裏では、ピンク・フロイドの”The Great Gig In The Sky"を彷彿とさせるコーラスが感情的を訴えかけてくる。そしてギターのヘヴィなリフパートとキーボードを添えたヴォーカルパートが交互に繰り出される。なんて歌詞なのか本当に気になるな。"Every Mankind~"って歌ってるように聞こえるけど多分ノルウェー語だから違うんだろうな。さて、曲は転調してヘヴィなギターとキーボードによる繋ぎから次のヘヴィなリフが登場❗️したと思うとペースが加速しキーボードが主体となるパートへ。この辺はユーライア・ヒープの影響とかなんでしょうか?我々の心に訴えるように先ほどのリフが繰り返される。またリフに回帰したのち、6分ほど尺を残しブレイク。グモグモとしたメロディのないパートに突入。途中で民族的なビートが現れるも展開を見せることなく消えてゆく…。この辺はアンビエントやらノイズミュージックの影響があるような気もします。明るめのオルガンの音から、最後には一筋の光のようなアコギが現れ、美しいメロディを奏でる。ヴォーカルも登場。何を言っているのか気になるが、おそらくポジティブな内容なんだろうか。長かった20分の曲も何やら幸せそうな展開で終了。名曲。

終わりに

中期クリムゾンを中心とした70年代の暗いハードロック、プログレからの影響が濃い。具体的には音楽性というか作風がかなりクリムゾン的暗黒系だが、音作りに関してはフロイド的な影響がかなり大きいと思う。特徴的なのは複雑な演奏や速さを超絶技巧、変拍子などを進んで採用していないにも関わらず、プログレッシブかつ暗黒的な演出に成功している点だ。例えばフロイドの「狂気」はプログレの典型とされる大曲志向や超絶技巧からみれば例外的である。にも関わらず、プログレを代表する超名盤でもある。そこには技巧に特化せず音数を減らすことにより心理的な効果を高めた音作りがあり、結果的に万人に受け入れられる不易流行の頂に到達したのだ。本作を創り上げたArabs In Aspicはそこから聴く人の心に訴える音使い、万人に届きうる不思議なポップさなどを学び、これを暗黒的な音作りと融合させたのだ。そこに折り合いをつけたのはまさに彼らの手腕であり、お互いが相反することなく結合し新たな価値が生み出されている。要は彼らの作るリフがもっと聴きてえな?」ということです。今後も名盤を作りそうな予感がするので何卒この路線でよろしくお願いします…(懇願) 

 

ちなみにどうでもいいですが、私が2018年に番聴いた曲がこれだったみたいです。Spotifyはこんなのも作ってくれてすげ〜な〜。

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